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過去のハイライト

 毎年6月、欧州の何れかの国で世界セルフメディケーション協会(WSMI)の理事会が開催されます。これは、欧州セルフメディケーション協会(AESGP)の年次総会に合わせて開催されるもので、今年は、ポルトガルのリスボンでの開催です。日本からは直行便がなく、欧州のいずれかで乗り換えての旅ですが、初夏に向かう花の季節の開催となります。
 この10年ほど、日本OTC医薬品協会勤務の一環としてWSMI理事会に可能な限り出席するようにして来ました。WS MI理事会は、毎年3月には米国セルフメディケーション協会(CHPA)の年次総会に合わせて米国で、6月には欧州で、10月ないし11月にはアジア太平洋地域若しくはラテンアメリカ地域での開催が通例となっています。米国での理事会は、季節の関係から南部フロリダがほとんどですが、欧州での理事会は、欧州協会の年次会合に合わせ、欧州各地での開催となり、クロアチアのドゥブロブニク、ポーランドのワルシャワ、ギリシャのアテネ、といった比較的日本から訪れることの少ない地を訪ねることもあります。ラテンアメリカ地域では、日本からの訪問者にとってさらに珍しい場所が選ばれることも少なくありません。
 世界、地域並びに各国協会は、セルフメディケーション・セルフケアの適切な推進を活動方針とし、日本OTC医薬品協会も創設以来その活動の一端を担っており、WSMIの理事会は貴重な情報交換の場でもあります。

 昨年末の総選挙に際して、自由民主党が公表した政策公約J-ファイル2012では300を超える項目が盛込まれましたが、その中の複数の項目で、セルフメディケーションの活用や、スイッチOTC医薬品の拡大が書き込まれ、我が国が世界に先駆けて直面する少子・高齢化、人口減少社会における医療と社会保障の姿を考えている事が伺われます。
 日本は、戦後の復興において、上下水道の整備を始めとした環境衛生の整備、食生活の充実、抗生物質を始めとした新薬の導入、更に、これら医療サービスの普及に重要な役割を果たした国民皆保険制度により、世界でもトップを争う長寿国を実現するに至りました。OECDの各国統計を見ても、日本は低廉な費用でたかい医療サービスが提供されていると見る事が出来ます。
 然し乍ら、どの様な制度であれ、漫然と寄りかかっていれば制度疲労が生じ、矛盾が生じてきます。例えば、小児医療や高齢者医療の無償化が各自治体により実現され、その恩恵を被る者にとって有り難いものとなっていますが、小児・高齢者のみならず、一般成人においても、自らの健康を管理・増進する基本姿勢が欠落し、「疾病に陥ったならば病院で治癒してもらう」と言った風潮が蔓延するに至っています。一方、医療機関がその受診者のために熱心に検査や治療手段の給付を行えば行う程、医療費が増大して行きます。
 無論、世界的に見ても、少子高齢化や医療技術の高度化、様々な新薬の登場等、様々な要因により医療費の増加は見られる訳であり、それ自体が否定されるべきものではありません。しかしながら、社会がどのように負担するかということについては、様々な意見があります。
 欧州においても、英国を中心に様々な取組みがあり、この数年における欧州地域会合では、セルフケア(セルフメディケーションを含む。)の活用を様々な観点から取り上げてきました。社会的なセーフティネットとしての医療保険制度を健全に維持する上でも、過度の依存をもたらす事無く、生活者が主体となって、自らの健康に留意し、その維持・増進に努める事によって、相互補完機能が発揮される事となります。
 米国においても、自由経済を進める中で、医療保険を購入できない無保険者の増大が社会的な問題となり、オバマ大統領の主唱する医療保険制度の整備がいわゆるオバマケアとして導入されたところですが、その一方で、セルフケアに努める生活者への税制優遇措置といったものや、セルフメディケーションを活用する事で、個々人のみならず社会負担を考慮した場合、多大な負担軽減が実現されるとの報告等が示されています。

 日本においても、日本OTC医薬品協会では、他の関係団体とともに「日本一般用医薬品連合会(一般薬連)」を結成し、生活者が実施するセルフメディケーションに対する税制優遇措置の創設を始めとした政策実現を提言してきました。
残念ながら、平成25年度の税制措置に盛込まれるには至って居ませんが、生活者によるセルフメディケーションを推進する上で、これ迄の啓発活動によるもの以上に、生活者の取組を後押しするものになると考えています。
 セルフメディケーションは、生活者が主体となって、自ら(或いは家族)の健康を維持増進するために、OTC医薬品やその他の医薬品等を活用しようとするものです。今日、生活者の健康知識(ヘルス・リテラシー)の向上や、特定保健検診・指導と言った環境整備を通じ、その実現はより容易となっています。
 これ迄のように、「病気になったらお医者さん」では無く、健康で長寿を実現するために、自らが主体となって取組む事が必要です。かって、厚生労働省が外郭団体を通じて選定した標語に『一に運動、二に食事、しっかり禁煙、最後にくすり』というものがあります。内容としては、決して古びる事の無い、大事な内容となっています。
 セルフメディケーションを包括するセルフケアは、この食育、体育そして薬育を包括したものと考える事ができます。OTC医薬品がサポートする範囲は、スイッチOTC薬の登場等を通じ、順次拡大されますが、新しい医薬品を活用し、健康に役立てて行くためには、主体である生活者が健康について正しい知識を持ち、それを活用して行く事が必要です。

 薬剤師の働きは、生活者が適切にセルフメディケーションを実施できるよう、情報の提供を行うとともに、生活者の協力の下に積極的に健康関連情報を取得し、生活者が自らは気付いていない分野にも医薬専門家としての立場から助言を与える事にあります。国民皆保険制度の中で、ともすれば医薬分業が院外処方せんの発行に代表され、薬局の機能が処方せんに従った医薬品の交付に矮小化されがちな事は、誠に残念な事です。薬剤師法に掲げる、調剤、医薬品供給、及びその他薬事を司る、という3つの分野に亘る薬剤師の職責を是非果たされることを願います。
 日本のドラッグストアには、実に多様なOTC医薬品が並び、そのほとんどを生活者が直接手に取って吟味することができるという事は、実は世界でも有数の実績である事に気付いていない人も少なくありません。世界に先駆けて少子高齢化社会に突入する日本と言う有数の場を活用した取組みに、薬剤師が生活者にもっとも近い立場に居る事をうまく活用して頂きたいものと思います。