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過去のハイライト

 日本薬学会は、医薬品をライフワークとする科学者及びそれを目指す学生から構成される学術団体であります。医薬品は人類が有する最高の知的財産の一つでありますから、日本薬学会の会員の方々は大きな誇りと共に大きな責任を持って日々研鑽に努めなければなりません。この研鑽を支援する事が、本学会の最大の使命であります。これまでの日本薬学会は創薬を志向する研究の方向を支援する事にエネルギーを注いできた感があります。しかしながら医薬品の科学は、創薬だけが中心ではなく育薬も同等な立場に位置づけられます。本年度の事業計画はその点を強く念頭に置いた内容になっていると御理解頂けると思います。一方、日本薬学会は大学薬学部と連動しているところはありますが、少し視点を変えて、医薬品をライフワークとする科学者の学術団体である事も意識した事業計画を立てております。

 現時点で日本薬学会が抱えている最大の問題点は薬学部6年制に基づいている事は明らかであります。事業計画を作製するにあたり、6年制の薬学教育モデル・コアカリキュラムを再度詳細に読み直してみました。印象は、高い水準の医療人たる薬剤師の輩出を目指した素晴らしいカリキュラムであります。但し、多くの大学教員からは悲鳴に似たカリキュラム改善要求が出されております。この原因は何なのでしょうか。本年度の事業計画の重要な課題の一つは、薬学部6年制を総括し、改善点を明確にする事にあると考えます。現在薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂に関する様々な委員会が開催されており、日本薬学会も深く関与しております。本委員会を通してこれ迄以上に積極的な日本薬学会からの発言をしていきたいと考えます。数多くの大学人の悲鳴は、具体的な話の内容を整理してみますと、(1)薬学実務実習における大学教員の多大な負担、(2)薬剤師国家試験に向けて学生はその準備に追われ、卒業研究が充分になされていないに集約されます。その結果、教員の研究活動が大幅に低下し、それと同時に学生サイドでは高い水準の薬剤師になるための研究を実施する時間が大幅に短くなっている事が大混乱の原因のように思われます。日本薬学会としましては、これらの事実の正確な把握に努め、改善点を積極的に且つ具体的に発言していきたいと考えます。又、6年制卒の薬剤師の方々が医薬品研究の一つの重要な領域であります創薬研究に携わる事が非常に困難になっているとの情報もあります。日本薬学会としましては、製薬企業の方々と積極的な話合いの機会を持ち、そこで得られる情報を大学人に発信していきたいと考えています。

 日本薬学会が抱えますもう一つの大きな問題点は、想定され得る会員数の減少に関してであります。これまでは修士課程時代、年会で発表する機会に日本薬学会会員になる事が一般的でありました。6年制を卒業後、薬剤師になり医療の現場あるいは薬局で活躍する進路が一般的になりますと、日本薬学会を飛び越えて職能団体の会員になる確率が極めて高いものとなると思われます。この問題点を解決する為には、常識的アイディアだけでは不十分であります。不十分というよりは、全く意味をなさないのではと考えます。斬新なアイディアの基、解決の可能性を少しでも探っていく事が本年度の重要な事業計画の一つであります。一方、会員数の減少を止めるささやかな方策ではありますが以下に記す二つの点を実施します。一つは、薬学部以外の学生が創薬に憧れ、薬学大学院修士課程に進学を希望するよう、“創薬の素晴らしさ”をアピールする講演会を本年度も全国で積極的に実施いたします。本講演会は学部学生を主な対象とします。もう一つは、製薬会社研究員の方々の日本薬学会への参加を積極的に求めたいと考えます。これまで、製薬会社の方々が最も多く参加する学会はアメリカ化学会の医薬化学部門であると考えられています。理由は、様々な創薬研究での情報が早く又数多く得られるからとの事です。なぜ日本薬学会の年会ではそれが実現出来ていないのか。この点につきましても、積極的な議論を行い、年会の内容を少しでも改善できるよう努力していきたいと考えます。

 近年、数多くの大学で研究のアクティビティーの低下が懸念されています。本問題は日本薬学会が誇ってきた基礎研究水準の低下にも直接的に関係する事です。いかにしてこの低下を最小限にする事が出来るか。極めて困難な問題ではありますが、本年度から次に述べます議論を日本薬学会の中で開始したいと考えます。他学会と比較した時の日本薬学会の一つの大きな特徴は、経済的に余裕があることであろうと思います。これは長井記念館の存在の為です。数年後には、この余裕が大きくなる事が予想されます。(公財)社団法人として認められえる事か否か分かりませんが、本会の経済的余裕を6年制の博士課程院生の支援に使用出来ないか、あらゆる角度から検討を致します。

 薬剤師の方々の生涯教育で様々な試みがなされている事は、御承知のとおりであります。この活動にも日本薬学会は積極的に関与していく所存ですが、重要な点は日本薬学会の特徴を活かした生涯教育への関与を目指していきたいと考えます。学会活動のグローバル化はこれまでにも大変な努力がなされておりますが、平成25年度も同様な方針で臨む予定です。 これからの日本の薬学はいわゆる薬•薬•薬連携が鍵を握っていると確信出来ます。連携案に関しては現時点では具体的に述べられませんが、お互いの強い点を互いに提供し、又比較的弱い点をお互い補っていく体制を一歩一歩強固にしていく覚悟であります。その第一歩として医療の現場で活躍する薬剤師の方々を対象とする賞を熊本年会で日本薬学会から授与する予定です。日本薬学会の全会員の皆様方の御支援を切に願うものであります。