トップページ > 過去のハイライト

過去のハイライト

 私ども欧州製薬団体連合会(EFPIA Japan)は、日本で事業を展開している研究開発に基盤を置く22社の欧州製薬企業で構成されており、2011年には会員企業の売上が日本市場の約25%を占めるまでに成長しています。研究開発活動も推進しており、過去3年間で会員会社が日本で承認を受けた新薬の数は全体の約40%となっています。また、会員企業の日本における雇用は、約32,000人となっています。私どもは「革新的な医薬品・ワクチンの早期導入を通じて日本の医療と患者さんに貢献すること」を目指して活動をしています。また、より良い日本の医療制度を実現するために欧州の医療制度の紹介やそれを効果的に日本に導入するための方策などの情報を提供し、立法府や行政府を含めた様々なステークホルダーとの議論を深めています。

 現在、EFPIA Japanとして特に注目しているのが「IMI(Innovative Medicine Initiative)」という欧州の産官学連携のしくみです。IMIではより有効で安全な医薬品を患者さんに届けるため医薬品の研究開発の効率化とプロセス改善をすることを目指しており、欧州連合から約10億ユーロ、参画する企業から約10億ユーロ相当の貢献(必ずしもお金ではなく、労働力や設備の提供なども含まれる)の合計約20億ユーロ(約2400億円)もの予算規模で産官学の共同研究を支援しています。IMIは、中立的な第三者機関としての役割を果たすことで医薬品産業とアカデミアの専門家、そして政府のパートナーシップをより効果的に機能させています。ウェットの基礎研究のみならず、教育の分野やデータベースの構築、疫学調査など創薬分野から教育、医薬品承認後の安全性評価に関わる部分まで多岐に渡りテーマが設定されています。今までの主要な成果としては、腎臓・肝臓、及び血管系の薬物障害を予測する各種バイオマーカーの同定、評価、順位付けなどや、統合失調症に関する25カ国以上の国の研究から23,000人の患者さんデータを収集したことなどが挙げられます。これらは既に新しい医薬品開発の際の基礎知見として医薬品を開発する企業や大学研究などに活用されています。また、新しいプロジェクトも逐次立ち上がっています。例えば、2012年のノーベル医学・生理学賞は、iPS研究で京都大学の山中伸弥教授が受賞したことは記憶に新しいと思いますが、IMIでは、2012年12月にはiPS研究関連でも「STEMBANCC」というプロジェクトをいち早く立ち上げました。このプロジェクトは過去最大の予算規模(5560万ユーロ:約66億円)であり、様々な疾患の研究や新薬の有効性・安全性の検証に有用と考えられる1500のヒトiPSセルラインを作成することを目的としています。オックスフォード大学が中心となり、それをサポートする企業が研究に参画するというものです。IMIでは、どの国の企業でもプロジェクトに参加可能です。また、成果物の特許についてもあらかじめ取り決めが行われています。

 このような産官学連携のしくみについては、日本でも様々な取り組みが行われていますが、成果は、なかなか表面に現れてこないのが現状と思います。それには主に2つの原因があるのではないでしょうか。一つには、基礎研究、創薬研究、臨床開発、薬事、疫学研究、安全性情報データベース、保険償還など医薬品が誕生する前から社会に出て安全に患者さんに使われるまでのバリューチェーンにおいて、各段階で個別の議論と資源配分がされており、全体を見通した総合的な支援がされていないということが挙げられると思います。そしてもう一つは、日本国内の資源にのみ集中した戦略に終始することが結果としては、思うような成果が表れないという原因ではないでしょうか。

 EFPIA Japanでは、政府や関連団体に対して、医療政策においてイノベーションを生み出すための創薬研究から薬が承認され、保険収載された際の財源のありかた、そして薬が安全に患者さんに使われ浸透していくまでの各段階に一貫した支援をすること、及び医薬品産業が経済に及ぼす影響を視野にいれて政策を作ることが重要だという主張をしています。また、最近では「オールジャパン」という言葉をよく聞きますが、日本の患者さん、日本のヘルスケア、日本の経済をより良くするためには、日本国内の資源の活用、つまり「オールジャパン」のみでは、達成できないと考えています。これだけ国際化が進んだ世界では、世界的な叡智と投資を日本に集めることを最優先に考えるべきと思います。とくに医薬品の分野は、最先端の科学的進歩がそのまま創薬につながり、創薬力がある国に住むことが、そのまま患者さんが最新の医薬品にアクセスできることに繋がります。先に述べたIMIは、欧州の仕組みですが、同様の仕組みを日本に作ることや逆に欧州の仕組みに日本企業が参加し、その成果を使って日本での創薬を活性化させることもできるのです。今までの日本における産官学連携の政策では、日本国内の場で日本国内の資源を利用するという仕組みが多いように思います。もっと海外の産官学連携のしくみに参加すること、そして海外の資源を日本に呼びこむことを通じて日本の医薬品産業の発展、経済の活性化、そして患者さんの新薬へのアクセスを改善することを目指すべきと思います。

 企業や国家間の競争がある中で、切磋琢磨しながら革新的新薬を創出していくことが病気と闘う産業としての使命だと考えています。