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過去のハイライト

(秦=秦野和浩 氏、加=加藤益弘 氏、西=西島正弘 会頭)

西: 本日は、秦野社長と加藤会長から、治験を取り巻く環境と今後の展望についてお話を伺います。治験は、新薬の患者での有効性と安全性を評価する重要なプロセスであり、薬学を学ぶ学生諸氏にとって治験関連の職業は、将来のキャリアと十分なりえます。お二人の話を基に、しっかりとした将来のビジョンを描いて欲しいと思います。まずは、グローバル製薬企業の立場から、加藤会長に治験の現状についてお話を伺いたいと思います。

加: 医科学の進歩や新薬の開発が進んでいるにも関わらず、よりよい治療へのニーズ(unmet medical needs)は依然として存在しています。Non Communicable Diseases(NCDs)といって非感染性の疾患が世界の健康問題で非常に重要になっています。糖尿病、循環器、がん、脳神経系、呼吸器系の疾患です。世界の死因の6割以上がNCDsによるもので、低・中発展国ではこの割合が更に多くなっています。また、世界で6000以上あるといわれる難病・稀少疾患の克服も重要なターゲットです。製薬企業は継続して革新的な新薬を世に出すために努力していますが、その最後の関門は患者さんでの治験です。世界の最新の医薬品がいち早く患者さんに届くように、日本も含めたアジアと欧米との共同のグローバル治験が益々大切になってきています。今まで以上に適切な治療法が確立されていない領域で貢献できる新薬を創出し続けることが、今後の製薬企業のミッションです。

秦: オーファンとも呼ばれる希少疾病に関しましては、市場性の低さから製薬企業に敬遠されがちですが、オーファンのすべての患者さんを合計すると欧米だけで 5,000万人を超えます。また、現在こそ患者数が少なくても、後に、急増する疾病もあります。例えば、国内でも特定疾患に指定されている潰瘍性大腸炎は、ここ10年の間に患者数が2倍になりましたが、この間、ステロイドに代わる薬剤が次々と誕生し、潰瘍性大腸炎の治療に大きく貢献しています。

西: つまり、ブロックバスターだけを狙ってきた時代から、ウリは小さくても社会的ベネフィットの高い市場にも製薬企業の開発指向が向いてきたということですね。それは好ましいことですが、株式会社の原理からすれば、より多くの新薬を創出しなくてはなりません。

加: はい。各社とも治験の数は確実に増えております。しかし、そのことが大きなコスト負担となっていることも事実です。現在、暫定的に施行されている新薬等創出加算制度は、そのような状況を打開するもので、企業が Unmet Medical Needs にチャレンジするためのよいインセンティブになっていると思います。一方で、世界的に治験の成功確率が下がってきています。今後、ますます臨床開発の質の向上と効率化が求められます。そのための基礎的研究や臨床の進め方について是非とも産官学がもっと協力できる仕組みが構築できたらと常々思っております。

西: 治験の効率化ということでしたら国際共同治験が今後ますます主流となってくるのではないでしょうか?

加: 海外の治験データを日本で使用できるようになったのは1998年ですが、真の意味で世界同時開発が可能となったのは、2000年中ごろからで、2007年には日本が国際共同(治験)に参加するための指針が示されました。その背景には、ドラッグラグの解消という大きな社会的問題があったわけですが、この新たな指針により製薬企業はより早期から国際共同治験を開始できる環境が整いました。

秦: 現在、国内で実施されている治験全体の2-3割は国際共同治験で、今後、この数字は確実に増えると思います。しかし解決すべき課題も多く、例えば、日本のGCPと海外で使用されているICH-GCPの内容には違いがあり、早期にこれらを後者に統合する必要があります。また、共通言語は英語ですので、日本人がリードを務めることは、そう簡単ではないのが現状ですが、必ずや将来、国際共同治験のリーダーを務められる人材を輩出し、日本主導の国際共同治験を実現したく思います。

西: そのために、治験をサポートする業務の強化が叫ばれているわけですが、日本のCRO(Contract Research Organization ※日本CRO協会)の現状はいかがでしょうか?

秦: CROという括りで事業を営む企業は国内に60社ほどありますが、主だったところでは20社程度です。CRO協会加盟社全体で、約11,000名の従業員がおりますが、そのうち、実際に医療機関を回ってデータを集めるCRA (Clinical Research Assistant) と呼ばれる人は約70%です。今後、増える治験の数を考えると、まったく足りず、より多くの人材を確保する必要があります。

加: CRAというのは、昔、製薬企業で「臨床モニター」と呼ばれていた職種です。CROとの業務提携が主流となり、製薬業界のCRAは事務的な仕事からより高い質の治験をマネージする仕事へと大きく変わりつつあります。症例データの電子化が進んだこともこの動きに拍車をかけていると思います。

西: 薬学の学生は、より臨床現場に近いところで仕事ができることを望んでいますので、CRAは大変魅力的な職業だと思います。患者さんの登録もCRAの仕事なのでしょうか?日本ではこれが大変と聞きます。

秦: 治験に適した患者さんの登録を促進するのは、各医療機関にいるCRC(Clinical Research Coordinator)です。治験コーディネーターとも呼ばれます。CRAとCRCの関係がうまくまわることが治験のスピードやクォリティの向上に繋がりますので、医学薬学の知識を持ち且つコミュニケーション能力の高い薬学部の学生さんには、どちらも適切な就職先になるかと思います。

西: コミュニケーション能力という話がありましたが、企業では、どういった人材をお望みですか?

秦: CRAは、医師とほぼ対等に専門領域の話ができなくては務まりませんので、専門性に加えてコミュニケーション能力は重要です。また、薬剤師の肩書が名刺にあるか否かで医師の構えも変わりますので、総合的に考えてやはり、6年制薬学部の学生さんは魅力的です。

加: 製薬企業としては、常に患者さんの身になって物事を考えられる人材が重要です。また、企業は組織として動くことが求められますので、チームワークを大事にする人が必要です。そして何よりも英語力。医薬品産業は、今やグローバル市場でのビジネスですので、内資外資問わず重要な素養となります。

秦: 先程も申し上げましたが、国際共同治験がこれからさらに増えることを考えれば、CROにおいても英語力は極めて重要な素養のひとつとなります。但し、英検3級の試験問題で満点を取ることができれば十分足ります。あとは実践で鍛えることでビジネス英語をマスターしていきます。弊社では、全社員に native speakerの社員との個別面談を毎週1時間課しています。

加: 国際共同治験でリーダーとなるためには、海外の医師と対等にディスカッションできる専門性と英語力は基より、周囲との関係構築力、交渉力、売り込みの力、戦略的思考力、さらにはマネジメント力が必要だと思います。そのような人材を輩出するためにも早いうちからの人材育成が求められています。弊社でも既に数人がCRAの仕事から、国際治験のチームリーダーの職にプロモートされ活躍している人がいます。

西: 今、大学では、優秀な学生を確保するために独自性を競いあっており、コミュニケーション能力など、社会に出てすぐ活かせる能力を養う機会を提供しています。弊学でも特定のテーマについて小グループで議論し発表する訓練や、企業のインターンシップへの参加を奨励するなどして個人の能力開発を支援しておりますが、企業側のスタンスはいかがでしょうか?

秦: 弊社では、夏休みシーズンに3日間の体験セミナーを毎年行っています。そもそも、CROという業種があまりポピュラーでないため、少しでも認知度が上がればと始めた試みです。出前授業の依頼も受けています。

西: 治験をとりまく現状についてよくわかりました。国際共同治験のリーダーを務めることができる日本人を、産官学が協力し合って、必ずや輩出しましょう。本日はありがとうございました。

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