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 iPS研究の領域において輝かしい成果を収められた山中伸弥博士に、この度ノーベル賞が授与されることとなり、心からお祝い申し上げます。さあ、この iPS技術をどう患者さんのために活用できるかがこれからの課題です。つまり、強力な Team Medicine(チーム医療)と Team Science(チームによる科学力)が不可欠なのです。これまでにも素晴らしい発見が患者さんのためにうまく活かされなかったことは多々ありました。その背景として高品質の Team Scienceを実践できるチームがなかったことがあげられます。「チーム医療」はTeam Scienceの上に成り立っています。そう、あなたも強力なチームの一員として患者さんのために貢献できるのです。そのことに気づいていただければ幸いです。

 今でこそ、「チーム医療」という言葉を日本でも聞くようになりましたが、米国では1960年代から既にMultidisciplinary Care というコンセプトがあり、それが発展して今のチーム医療に至っています。特に、がん治療では、様々な専門家が多方面から治療の有効性と安全性を議論し、その結果として導き出される最高の医療を患者さんに施すことが最大の使命です。それができるチームとは、エビデンスに基づいた臨床経験を豊富に持ち、お互い気兼ねなく意見を言い合うことが可能で、個々の専門性においてリーダーシップを発揮できるメンバーからなるチームです。日本では、とかく一人の権力者がチームを牽引することをリーダーシップと考えがちですが、米国では、メンバーひとりひとりが各自の専門領域でリーダーであり、またお互いがお互いを認めあいレスペクトすることで強力な医療チームが築き上げられています。日本の「チーム医療」は、米国と比べてまだ経験も浅いので、概して単なる異分野の専門家集団であることが多く、コミュニケーション不足から機能的に働かないチームが多いように思います。特に、薬剤師の発言力が弱い場合が多く、医師の家来でしかない薬剤師をよく見かけます。この状況は決して良いものではなく、薬剤師を含め、チームメンバー全員が対等に話し合いをできる環境を作り上げなくては、効果的なチーム医療は望めません。

 薬剤師は薬の専門家であり、特定の患者さんに適した薬物療法の最新情報を持っています。チーム医療にあっては、積極的にエビデンスに基づいた医薬品情報を提供し、有効性と安全性の管理においてリーダーシップを発揮して欲しく思います。また、その時点でベストだとされる治療法との比較をテーマとした治験では、より積極的な薬剤師の関与を望みます。薬剤師は看護師とともに患者さんの身近な存在であり、患者さんの視点に立った評価ができるからです。どんな些細なことでも患者さんの声には耳を傾け、その内容をチームでシェアしてください。また、患者さんにとっても、薬の相談を気軽にできる薬剤師がそばにいてくれるだけで大変心強いものです。

 製薬企業の最大の役割は、常に薬物治療の標準を定め、それを更に良いものに発展させていくことです。そのためには、医療現場で真に必要とされているものを知ることが大切です。つまり、医療従事者と製薬企業は、もっと医療ニーズについてディスカッションを交わし、患者さんにとって本当に意味のあるものは何なのかを徹底的に追及する必要があると思います。そしてそれが最高の治療に結びつくのだと思います。また、最近では疾患啓発を積極的に行う企業も増え、それが患者力の向上に結びついています。MRから医師への情報提供、広報からマスコミへのプレスリリースについても、彼らの後ろに患者さんがいることを常に意識し、患者さんのベネフィットに結びつく情報提供を心掛けていただければと思います。

 まずは、しっかりとしたチーム教育を行うことです。日本の大学にありがちな学部、学科、教室などで括られた教育から脱却して、違う専門性を持つグループとワークショップをするなど、違う角度からの議論を通して、チームとしての活動、そしてリーダーシップの意味について学んで欲しいと思います。薬学を学ぶ学生は、病院や薬局の薬剤師だけでなく、製薬企業やCRO、あるいは治験センターや監督官庁などに就職されると思いますが、どこに勤めても必ずチームとしての動きが必要となります。その動きの行く先が治療という重要なミッションに向いたものがチーム医療です。同じミッション、同じビジョンを共有した様々な道のプロが協力して最善の治療を行うことで、最高の治療を患者さんに施すことが可能となります。

 私がビジョンとして描いているものは、世界で最高の乳がん研究グループです。そして、より革新的なバイオマーカーを開発し、臨床研究から導かれたエビデンスに基づいた標的治療を世に提供することで、乳がんで亡くなる患者さんを減らすこと、同時に、次世代に活躍するがん研究者を育てあげることが私のミッションです。日本では、がん研究者の育成が急務であり、「チーム医療」をテーマとしたワークショップを、11月に日本で初めて行います。がん治療に関わるすべての職種の方々が集まり、「チーム医療」を効果的に行うために必要なスキルを鍛えます。中でも、リーダーシップ、コミュニケーション、コンセンサスのスキルは重要で、また、各自がミッション&ビジョンをクリアに描けていることも大事です。その上で必要なエビデンス情報が乗ることによりチームとして機能するようになります。医療というと、とかく病気の原因を取り除くことや、症状を緩和させるといった身体的苦痛を緩和、あるいは精神的な苦痛を緩和する行為を指すと考えがちですが、米国においては、患者さんに病気と闘う力(患者力)を与えて自立させることも医療と考えられています。つまり、家族や友人、マスコミ、製薬企業の広報などもチーム医療のメンバーと言えます。そして、患者さんは、いかなる場合においてもその中心にいることを是非、忘れずにいて欲しいと思います。

 皆さんのうちの多くは医療に関わる仕事に就くと思いますが、その場合、必ずチーム医療との接点があります。その役割は、非常に多岐に渡っているのですが、日本に閉じこもっていては、そのうちの一部しか見ることができません。是非とも日本から飛び出して、海外でなければ見聞できないものを実感してください。たくさんの新たな発見があるはずです。臨床薬剤師としてチーム医療のメンバーとなる方は、自分が薬のプロであり、その領域ではリーダーであることの自覚を持って欲しいと思います。特に日本ではこれから臨床薬剤師の役割が無限大に広がると思います。

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Naoto T. Ueno, M.D., Ph.D., F.A.C.P.
Professor of Medicine
Executive Director of the Morgan Welch Inflammatory Breast Cancer Research Program and Clinic
Section Chief, Section of the Translational Breast Cancer Research
Department of Breast Medical Oncology
The University of Texas MD Anderson Cancer Center