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過去のハイライト

 くすりの適正使用協議会(旧;RAD-AR協議会)は、この度、黒川達夫先生(慶応大学薬学部教授)を新理事長に迎え、設立23年で初めて活動内容の大幅なリニューアルを行いました。
 従来は、「医薬品の本質の理解促進と医薬品の正しい用い方の啓発活動」を基本として展開し、医薬品の本質を評価する学問・手段の普及・理解度の向上、医薬品の適正使用情報の開発・提供・普及などの実績を積み上げてきました。
 今回、協議会ではキーコンセプト、「医薬品リテラシーの育成と活用」をかかげ、くすりの適正使用促進に向けた活動を開始しています。また、協議会では、《「くすり」は正しく飲んでこそ「くすり」です》をキャッチフレーズとし、製薬企業のCSR(社会的責任)に貢献できるよう、各業界団体とも連携を密にして活動して参ります。

 2010年4月、「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」においてとりまとめられた「最終提言」を具体化するために、2011年2月、厚生労働省の厚生科学審議会のもとに、医薬品等制度改正検討部会が設置されました。筆者もその委員の一員として参画し、本年の通常国会への薬事法改正法案提出を目指し、医薬品等の安全対策の強化について活発な議論を行いました。
 この議論を経て、「薬事法等制度改正についてのとりまとめ」が2012年1月24日、厚生労働省より公表されました。とりまとめの中で、「薬事法の目的規定等の見直しとして、薬害の再発を防止するため、医薬品等を使用する国民の役割も明らかにすることが適当である」とされた点が注目されます。「国民は、医薬品等の適正な使用や有効性及び安全性の確保に関する知識と理解を深めること」と取りまとめられています。
 この背景には、食品安全基本法に規定されている消費者の役割を参考に、医薬品がより適切にかつ安全に使用されるためには、医療関係者から患者さんへの説明だけではなく、患者さん自身が、副作用の存在など医薬品に対する理解を深め、自ら納得した上で医薬品を使用するなど、患者さんとしても果たす役割があるのではないかと考えられたからです。

 2010年に協議会が実施した意識調査では、医師の指示通り服薬している人は全体の36%程度に過ぎませんでした(図1)。 更に治療に自分の意思が反映されていないと思っている人が約半数おり(図2)、また、処方薬について専門家に尋ねたことがない人も約半数となっています(図3)。 原因は医薬品の本質への理解不足や医薬品の情報不足にあるのではないかと考えられます。大半の人は「治った」等の自己判断で「くすり」を正しく用いていませんでした。その根本的な理由は「医薬品リテラシー」がきちんと身についていないことにあると考えられます。
 一方、世界的なセルフメディケーションの推進を背景に、2005年、中央教育審議会は、小・中学生が身に付ける知識の最少限度の一つとして「医薬品の有効性や副作用を理解し、正しく使うことができること」を提言しました。更に2008年、同審議会は「中学校教育に医薬品教育を追加し、高等学校ではそのレベルアップをすること」と答申を出しました。2008年3月、中学校学習指導要領が公示され「医薬品の正しい使用」が平成24年度から、2009年3月、高等学校学習指導要領が公示され「医薬品の 承認審査、販売規制及び適正使用」が平成25年度から実施されることとなりました。
 いよいよ今年の4月からは中学教育の中で医薬品の正しい使い方の授業が開始されています。医薬品の主作用、副作用の理解、なぜ、くすりをコップ一杯の水で飲むのかなど、くすりの適正使用の基本を勉強します。協議会では従来にも増して、国民のくすりへの意識のレベルアップに貢献すべく活動して参ります。

 「くすりのしおり」は、個々の医薬品を製造販売している製薬企業各社から提供される最新のデータを協議会がまとめ、患者さんのための信頼性が高く、利便性の高い医薬品情報として発行しています。医薬品ごとにA4サイズの情報シート1枚とコンパクトで、製剤写真を掲載し「効能・効果」や「副作用」、「使用上の注意」などについて、薬剤師から患者さんへ効率的に情報伝達ができ、印刷すれば患者さんの持ち帰りも可能です。現在143社の会員企業が参加しており、約11,000品目もの医薬品情報が作成されていますので、今後その内容をさらに充実し、普及を促す活動を展開します。

 現在は家庭にいながら簡単にインターネットを通じて、医薬品情報が入手できる時代です。良質な医薬品情報が簡単に得られると同時にその信ぴょう性に疑問を覚えざるを得ない情報もあることも事実です。氾濫する医薬品情報の嵐の中で、くすりに関する正しい情報は何か、ということと共に、正しいくすりの情報をわかりやすく伝えるのは誰かということも問われます。その役割を主として担うのが薬剤師の大きな使命です。近年、薬学部の学生ならびに薬学を志す方の需要が増大してきています。数多くの薬学に興味を持っている方々が私たちの活動に積極的に参加していただく事に期待しています。

くすりの適正使用協議会 副理事長 藤原昭雄

(図)意識調査結果

「医薬品および医療に関する意識調査」
2010年10月 くすりの適正使用協議会
・2010年7月30日~8月2日実施
・インターネット調査 (株式会社ボーダーズのパネルを使用)
・全国の20~69歳の男女を対象に実施
(8,344万人の年齢構成に合わせた層化抽出)

図1. 処方薬の服用状況

図2. 治療に自分の意思が反映されたか

図3. 処方薬について尋ねた経験