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過去のハイライト

 平成24年3月から岡山大学薬学部に『救急薬学分野』を開設しました。そもそも、全国の薬学部には、医学部にある臨床系講座(診療科)のような名前がついた研究室はこれまで皆無でした。

 歴史的背景から、薬学部は自然科学、生命科学そして創薬科学の分野で一流の科学者を養成し、より有効で安全な医薬品開発を発展させることにより社会貢献し、かつ最先端科学の知識をもった薬剤師を輩出する役割を果たしてきました。しかし、平成18年から薬学教育の6年制が導入され、薬学部の歴史に大きな変遷をもたらしました。多くの大学では社会のニーズや医療制度の変化に対応すべく斬新な教育プログラム、そして臨床教育に着手し、さらにはEducatorの確保にも奔走してきました。平成24年4月には新たな時代を担う薬剤師が社会に羽ばたきました。このような時代の流れのなかで、薬剤師の役割は拡大の一途を遂げています。特に、最近は薬学部を志す高校生も知っている「チーム医療の推進」により、病院薬剤師も保険薬局薬剤師も医療現場の最前線で活躍しています。

 私は、薬剤師の経験を経て6年制教育の充実を計るため、平成19年8月に岡山大学医療教育統合開発センター薬学教育部門へ赴任して以来、医学教育部門の救急医や外科医、内科医と共に全人的医療人教育に従事する機会が増えました。病院内の救急ワーキンググループでは、患者の急変シミュレーションにチームで対応する教育プログラムを立ち上げる準備や、BLS(Basic Life Support)、ICLS(Immediate Cardiac Life Support)インストラクターとして教育訓練を支援、さらには医師・歯科医師・看護師と共に米国集中治療医学会が提供するFCCS(Fundamental Critical Care Support)プロバイダーコース、BDLS(Basic Disaster Life Support)、災害シミュレーションエマルゴプロバイダーコースなどへ参加しながら薬学教育における救急医療教育の重要性を常々感じていました。決定的だったのは、3.11東日本大震災医療支援チームメンバーとして、災害亜急性期に被災地派遣されたことでした。この時ばかりは、不安を抱えながら薬剤師として初めて経験する災害医療への対応でした。被災地での毎日の出来事を振り返ると、冷静に判断しながら…、いや、そんな余裕はなく臨機応変にチーム医療へ徹することしかできませんでした。共に活動する医師、看護師の仲間とは言葉がなくとも相互に何を考えているか自然と連携ができていたのを記憶しています。大学に帰って自分が見てきた被災地の状況、そして機能していた医療機関で薬剤師として果たしてきた内容を学内の報告会で紹介する機会を得ました。その後、学生からそして薬学部の先生方からも、災害時や緊急時における薬剤師の役割を理解していただき、そして医薬品を扱うキーパーソンであることが再認識され、岡山大学薬学部に救急薬学分野が設立されました。

 みなさんご存知のとおり、東日本大震災では災害時に薬剤師の存在意義が大きくマスコミでも取り上げられ、薬の専門家として活躍された薬剤師さんが多数おられました。しかし、初期の段階では医療支援には薬剤師が入っていた医療チームは少なく、被災地各地では「薬剤師が足りません!」との声があがっていたのをご存知でしょうか。私も初日から陸前高田の仮設診療所では、「薬剤師がいた!」と歓迎され、医師・看護師と協同して投薬にあたり、朝から晩まで休む間もなかったのを鮮明に記憶しています。平常時とは異なり、災害時は医師への処方提案(同種同効薬が散在していたため)、医薬品の管理方法(調剤棚などないため工夫が必要)、医薬品流通の確保(卸業者との連携など)から患者のメンタルケア、避難所の衛生管理まで何から何まで状況に応じて対応が求められました。薬剤師はある意味、災害医療のロジスティックスを担う必要性もあるでしょう。残念なことに、実務実習を含めて薬学部の教育にはこれまでこれらの教育カリキュラムは含まれていません。今後、薬剤師の業務拡大、チーム医療推進のためには必須教育項目としてあるべきだと感じました。これには私が経験した同時期、すなわち災害亜急性期に現場を経験した薬剤師、また大学教員である薬剤師の経験が大きく役立つことでしょう。

 従来救急医療では、重症熱傷、多発外傷、重症感染症、心筋梗塞、脳血管障害、薬毒物中毒などの重篤な患者を受け入れ、救急専門医が診療を、看護師が患者ケアを担当するシステムが一般的でした。岡山大学病院では、救急現場での医師・看護師・薬剤師によるチームコラボレーションを推進し、救急薬学分野は薬学の専門知識を最大限に提供し、救急医療に特化した薬物治療のアプローチ、医薬品情報の共有化、そして学部・大学院教育に加え臨床研究を展開して行くことを目標としております。学部教育では、生命の尊厳、医療倫理、安全管理の意識改革、医療人として相応しい態度を涵養します。岡山大学病院では、平成23年10月から3次救急センターを開設しました。スタート時から救急薬学の薬剤師として許される範囲で(講義や会議以外の時間)救急チームのメンバーとして参入しております。平成24年4月より高度救命救急センターの指定を受け、現在は薬剤師3名(薬剤部1名、救急薬学2名)で適時診療に貢献しています。具体的な活動内容としては、当然のことながら毎朝診療前のカンファレンスに出席して適切な薬物療法への助言から副作用確認、医薬品の管理・安定供給、救急外来患者の薬歴・持参薬チェックや心肺停止患者の胸骨圧迫まで行います。このように救急医療では薬剤師も最前線に出ていくことが最重要であり、患者とその家族、医師・看護師もそれを求めています。実際、災害医療においてもこのような経験が応用可能となります。

 現在、日本病院薬剤師会、日本医療薬学会をはじめとした専門薬剤師や認定薬剤師取得を目指すプロフェッショナルが増えています。薬剤師も医師のように専門性を追求してチーム医療に益々貢献できるチャンスでもあります。救急認定薬剤師もまたそのうちの一つでありますが、何せ守備範囲が広いです。感染制御、輸液・栄養、創傷治療、薬物動態、毒性薬理、循環器・呼吸器薬理など様々な薬学的知見から、ジェネラリストとしてもチーム医療へ貢献しなければなりません。さらに一刻を争う判断を求められます。ぜひとも一人でも多くの命を救える救急チームの一員を育てて行きたいと願っています。