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過去のハイライト

 現在、使用されている医薬品の半数以上は、天然物や天然物をリードとして創製されたキラル化合物です。新薬シーズ探索に基づいた緻密な分子設計と創薬プロセスの開発には、力量ある有機合成、すなわち“ものづくりの力”が必須であり、天然物の全合成や創薬への活用を目指した遷移金属錯体触媒や有機分子触媒を用いる有機合成が著しく発展しています。筆者は、約30年に亘り、有機金属化学を基盤とした高度な触媒的有機合成反応の開発を行っており、特に、“ルテニウム錯体触媒の化学”に関する研究は、筆者のライフワークです。

 今回、薬学会のHPにハイライトを執筆する機会を頂きましたので、薬学を専門とする研究者の皆様へのメッセージとして、第一に異分野融合研究に挑戦すること、第二に有機合成力を養うことを挙げさせて頂きます。以下、自身の経験を基に説明させて頂きます。

 筆者には、平成18年10月に人生の転機が訪れました。それは筆者がこれまでの研究生活で経験したことのない大きな決断を下さなければならない人生最大の危機であるとともに、最大のチャンスでもありました。すなわち、当時、京都大学でスタートした医工融合研究(正確には、医学、薬学、工学、情報学等の異分野融合研究)・産学連携研究に参画し、コーディネートを行う研究推進委員(教授)を拝命しました。筆者に課されたミッションは、文部科学省科学技術振興調整費“先端融合イノベーション創出拠点の形成”プログラムに採択された京都大学-キヤノン協働研究プロジェクト(通称、CKプロジェクト)“高次生体イメージング先端テクノハブ”を強力に推進することでした。(http://ckpj.t.kyoto-u.ac.jp

 本プロジェクトで取り組む先端融合領域とは、疾病の早期発見と予防医療を実現するため、医療分野に科学技術イノベーションを持ち込み、高齢化社会を迎えつつある世界中の人々に健康な暮らしを約束し、生活の質(Quality of Life, QOL)の飛躍的向上を実現することです。同時に、医療診断分野で新産業の勃興を促し、大きな経済発展と科学技術の社会への転換を加速することが目的です。そのためには、分子プローブを高度に利用した高次生体イメージングが必須であり、医学、薬学、工学、情報学を始めとする多元的な学問領域を集学融合し、疾病の予兆や原因となる特異的生体分子の動態も含めて、低侵襲性で人にやさしく、高感度・高分解能・高次元で計測・画像化する新機軸のイメージングモダリティの製品化に取り組んでいます。さらに、京都大学がストックしている多元的な科学技術の「知」を医療診断技術に転換する国際的トランスレーショナル・リサーチ拠点を整備するともに、若手研究者を育成する融合教育拠点を構築し、医工融合研究・教育分野で日本が世界を先導するというミッションが課せられています。

 工学出身の筆者が異分野である医学、薬学との融合研究にどのように貢献できるか?を試行錯誤している間に一年が過ぎていました。筆者は企業との協働の経験はありましたが、工学と全く文化が異なる医学、薬学の教員、および研究者との意思の疎通が極めて難しいことも初めて実感しました。二年目には、“分子プローブ”グループのリーダーを承引することになり、三年目の再審査では、ようやく医学、薬学、工学、情報学の確執がなくなり、プロジェクト構成員全員の努力により、継続が認められました(平成18年度採択9課題の内、4課題のみが継続。残り5課題は打ち切り。)。また、自身の研究成果としては、キラルデンドリマーアミンが配位した新規高感度 Gd-MRI 造影剤の開発に成功し、現在、キラリティによる体内動態の差を明らかにし、PEG(polyethylene glycol)および抗体修飾による“がん”選択的 MRI 造影剤の開発へと展開しています。本年度はあらためて7年目の中間評価が実施される年であり、分子プローブグループ発の様々な研究成果を纏めるとともに、自身の研究としては、光音響(光超音波)-MRデュアルイメージングのためのゼラチン修飾 Gd2O3 ナノ粒子の開発と機能評価、および多重共鳴 MRI のための新規分子プローブ型造影剤(京都大学白川教授、杤尾准教授、同志社大学青山教授、九州大学山東教授との共同研究)の開発に注力しています。筆者は幸い、有機金属化学を基礎とする有機合成力を有していたことから、大きな試練を乗り越えることができ、さらに医工融合研究、産学連携研究の面白さを知ることができたと思います。もちろんそう感じられるのは、当研究室のスタッフである木村祐助教、山田久嗣助教に支えられたからであり、大変感謝しています。

 製薬企業や薬局への薬剤師/薬学部生の就職状況が良いことは歓迎すべきことであり、薬学部の6年制への移行に伴う“空白の2年間”による影響と考えられます。薬学部出身者の最近の就職状況は、6年制薬学部生は病院薬剤師・調剤薬局等に、4年制薬学部生は MR(医薬情報担当者、Medical Representative)等に、そして4年制薬学部+2年修士課程学生は製薬企業研究所等に就職となっており、特に調剤薬局や製薬企業の MR としての採用が増えています。しかしながら、薬学出身者の就く職業はもっと広くて良いと考えます。当然のことながら、基礎研究を行うアカデミアと企業の研究者が減れば、その学問領域は必ず衰退します。従って、例えば、博士課程に進み、PhD+薬剤師となれば国際的評価も高く、アカデミア、行政、製薬企業、臨床試験支援企業等、活躍できる場は大きく広がります。さらに、薬学を学んでから早い時期に工学等の異分野を学ぶことにより、自身の可能性は無限に広がると考えます。

 今後、学問の境界はほとんどなくなり、異分野融合研究や産学連携研究が一般的になると考えます。次世代を担う若手研究者には、自身の信念に基づいた独創的で質の高い研究に邁進するとともに、是非、薬学という一つの研究分野に固執せず,あらゆる融合領域研究に積極的に挑戦してもらいたいと思います。また,そのことが薬学という学問のさらなる発展の礎になると筆者は確信しています。