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過去のハイライト

 2012年は日本で製薬会社のMRが活動を始めてから、ちょうと100年目にあたります。日本でのMR活動は、スイス・ロシュ社のドイツ人医師ルドルフ・エベリング氏が日本人薬剤師の二宮昌平氏を伴って医療機関を訪問したのが最初とされ、両氏は、大学や医師会単位の講演会を通して、医薬品の優秀性を医師や薬剤師に浸透させました。セールス行為を排し、あくまで医薬品の適正使用と普及を目的にプロパガンダ活動を行ったといわれています。
 それから100年の時を超え、現代の診療室や薬剤部で使われる医薬品の多くは、患者一人ひとりのアンメットニーズを満たす、オーダーメード型の革新的新薬にまで進化を遂げてきました。こうした新薬開発の流れは日本国内に止まらず、欧米先進国はもとより、中国、インド、ロシア、ブラジルなどの新興国市場にも大きなインパクトを与えています。製薬企業が創製する革新的新薬により、地球規模で医療水準の向上が図られていることは歓迎すべきことです。だが、こうした革新的新薬を適正に使いこなせるかは、医療現場に任されており、新薬の価値を最大限引き出し、治療上の成果をあげることができるのは、現場の医師や薬剤師なのです。
 そこで重要なのが、医薬品に関する情報です。MRは、医薬品情報を通じ、製薬企業と医師、薬剤師をつなぐ役目を担っています。100年前にMR活動をスタートしてから、現在に至るまでその基本的なスタンスに変化はありません。ひとつあるとすれば、近年のIT技術の格段の進歩により、インターネットを介し、医療従事者が容易に情報を得られるようになったことでしょう。
 医師や薬剤師も従来に増して業務量が増え、MRとの面談時間は過去に比べ少なくなっています。その代用として、インターネットを通じ、医薬品情報にアクセスする機会も増えているようです。最近では、SNS(ソーシャルメディア)のような新しい情報ツールも出現し、医療者同士がネット上で手軽に意見交換できるようにもなりました。iPadやiPhoneの登場が社会現象となるように、社会インフラの飛躍的な進歩が医療者や患者の志向に大きく影響しているということは、まさにイノベーション時代の到来を予感させるものです。
 現時点でMRとの面談を不要だと切り捨てる医療者はまだ少数派ですが、社会環境の変化や、MRの絶対数の多さを指摘する意見が医療現場にあることは周知の事実で、不要とのレッテルを張られないためにも、次世代MRとしての機能や役割、職業観、職業意識の確立が求められてきています。

  医療者を取材すると、新薬の有効性・安全性に関するエビデンスや、他剤との呑み合わせに関する情報はMRと逢って、直接話しを聞きたいと言います。ところが、取材を進めると、MR活動そのものへの批判的な意見を聞くことも少なくありません。何故か?
 これまでの取材で、医療者とMR間に存在する情報のミスマッチが明らかとなっています。MRが情報の受け手である医療者の質問や医療ニーズに的確に応えていないというのが率直な答えです。
 病院の暗い廊下に並ぶMRの姿を目にする。医師が部屋から出てくると、その横に寄り添い、一言、二言会話をする。医師も応じるが、そこで交わされる会話は一方的な製品メッセージが多く、決して医療者のニーズを汲んでいるとは限らない。これはあくまで極端な事例ですが、こうしたアプローチの手法は、一般社会に照らすと奇異に映ることでしょう。
 最近は病院や診療所の多くがMRに訪問規制を課し、アポイント制に切り替える動きをみせています。本来的な医療者との面談は、一方的な情報提供ではなく、医療者の医薬品に対する疑念や不安を払しょくするための情報収集活動と情報提供活動がセットであり、そのためには十分な時間をとって、Face to Faceによるコミュニケーションを行うことが望まれます。
 内外資を問わず、新薬開発企業のマーケティングは、当該新薬の特徴をベースとしたキーメッセージ発信型のプロモーション活動が主流となっています。このためMRを管理する本社サイドは、MRに医師との面談数や説明会の目標回数を課し、その成果でMRの成績を評価しています。その結果、MR自身もSOV(シェア・オブ・ボイス)と呼ばれる製品名のコール数を意識した活動に注力せざるを得ない環境にあるのです。厳しい見方をすれば、こうした顧客不在の思想が、医療者との情報のミスマッチを生んでいるといっても過言ではないと思います。
 直近10年間は、国内外の学会で発表される大規模臨床試験の結果を中心としたエビデンス・ベースドのプロモーション戦略に製薬企業は注力してきました。製薬企業はエビデンス情報をタイムリーに発信し、製品の価値を高める情報提供活動をMRに行わせてきました。その成果は医療現場にもたらされ、医療者側の診療ガイドライン遵守や最適な薬物治療の方針決定に対する感度を引き上げたとみる向きもあります。ただ、ここにきて、エビデンスをめぐる課題も散見されはじめました。プライマリケア医を中心に実臨床との乖離が指摘され、新たな局面も迎えています。
 医薬品開発の方向性も、これまでのような生活習慣病薬を中心としたブロックバスター型から、がんや認知症などアンメットニーズ型にシフトしており、MRもより専門性の高い情報の提供が求められています。加えて、患者に応じたオーダーメード医療が普及すればするほど、症例ベースの情報ニーズは高まるでしょう。そうなれば、これまでのようなSOVを中心としたMR活動は終焉を迎えることになります。ここから方向転換できないMRは淘汰されると考えられます。
 すでに周知のように、2012年4月から医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(メーカー公取競)が定める接待規制が改正されました。加えて日本製薬工業協会の「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」も施行され、製薬企業と医師等との資金の流れを透明化する動きが始まっています。
 これら規則の見直しはMR活動にも少なからず影響を及ぼすものです。ここで改めてMRの役割を考えなければなりません。MRの役割は、医薬品情報を通じ、医療者と患者間の良好な関係構築をサポートし、最終的な治療上のベネフィットを患者にもたらす一旦を担っているということです。その自覚無くしてMRの機能や職業観を醸成することはできないでしょう。

  では、次世代のMRに課せられる役割とは何でしょう?医療者や患者のニーズが多様化するなかで、医薬品情報の提供はこれまでのような不特定多数(マス)をターゲットとしたものから、疾患や領域など専門分化した各セグメントをターゲットとしたものに置き換わると思われます。加えて、革新的な新薬、長期収載医薬品、ジェネリック品と、それぞれ異なったカテゴリーで別々の情報ニーズが発生し、その結果、MRの役割も、細分化するとみています。
 一例をあげれば、医薬品の価値を最大化するような情報活動はスペシャリティー領域の新薬に絞られることでしょう。この分野を担当するMRは、より専門性の高い情報をタイムリーにキャッチアップし、医療者と話し込む必要があります。先述したように、症例ベースの情報交換が求められ、その場でMRは患者と向き合う医師の悩みや不安の解消に当たらなくてはなりません。まさに薬物治療パートナーとしての責務を負うことになります。また、これが次世代のMRに求められるスキルとなるはずです。
 一方、特許切れ間近の長期収載医薬品やジェネリック品を担当するMRにとっては、製品の価値の訴求というより、経済性を重視したプロモーション活動が軸となります。その意味では医薬品卸と医療機関を結ぶ流通政策のスペシャリストとしての役割が求められるかもしれません。
 これで分かるように、100年目を迎えたMRは、役割や機能が細分化され、さらに新薬メーカー、長期収載品メーカー、GEメーカーというカテゴリーでも多様性が生じます。
 次世代のMRが医療者のよきパートナーとして活動するためには、MRだけでなく、製薬企業の経営者やライン長の意識改革も避けては通れません。いまのMRの成績評価システムでは、SOVからの脱却は叶わず、医療者のニーズを引き出し、そこに見合う情報提供者としての活動に転換するのは困難です。
 その他に、MR活動を規定している製薬業界のプロモーションコードについても、いまの時代に見合った内容に一部見直してみてはどうかと思います。情報のミスマッチの多くは、競合品や呑み合わせに関するものです。特に競合品の情報は、他社の誹謗中傷に相当するとしてMR活動そのものに制限をかけています。一方で、医師がMRに求める情報提供の上位に競合品情報がランクされており、このミスマッチを解消することも大切です。
 100年目を迎えたMR、次の時代への課題は山積していますが、まさに時代の変化を捉え、医療の向上と患者さんへのベネフィットを目指した改革に業界をあげて取り組んで欲しいと願っています。加えて「育薬」の面でMRの果たすべき役割は増大するとみています。特に薬剤師との連携は不可欠です。いかに彼らとパートナーシップを築けるかが今後益々重要となるはずです。まずはMRの皆さんが率先してチャレンジして欲しいし、薬剤師の先生方には MRと協働して「患者中心の医療」を是非実現して頂きたく思います。その上で、MRが、次世代のMRとしての姿を確立して欲しいと願っています。薬学生の皆さんには、是非、医薬品情報提供者、すなわちMR という職業を思い描き、患者さんのために彼らがいかに重要な存在であるかを知ってもらいたいと思います。