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 この度、日本薬学会第132年会を北海道大学札幌キャンパス内で2012(平成24)年3月28(水)−31日(土)に開催することになりました。今回のテーマは「創薬フロンティアが拓く未来医療」です。
 本年4月に6年制薬学科の最初の卒業生が社会に羽ばたきます。事前実習講義を含めて約6ヶ月間の病院・開局薬局での実務実習を経験し、臨床薬学教育のみな らず、卒業研究もこなした薬剤師として主に医療現場で活躍することが期待されています。一方、文部科学省の最先端研究基盤事業「化合物ライブラリーを活用 した創薬等最先端研究・教育基盤の整備」事業が昨年度からスタートし、東大が保有する化合物ライブラリーを利用する創薬研究が北大の他に、東北大、京大、 阪大、九大、長崎大を地域拠点として活発に行われ始めています。このような薬学・医学を中心にする創薬研究が全国規模で開始されたのは初めてのことであ り、従来に増してacademic drug discoveryが進展し、創薬を担う数多くの若手研究者が育成されることが期待されています。その結果として、世界と戦える日本の製薬産業の創薬研究 を担う優秀な人材が育つことが求められています。また、レギュラトリーサイエンス(評価科学)を熟知した医薬品・医療機器の認可事業を担う人材育成が厚生 労働省やPMDAを中心にして本格的に開始されました。このように薬を造る側、認可する側、適正使用を進める側の人材育成が本格的に開始されたことによ り、日本の医薬品を取り巻く環境が大きく変化しようとしている中で第132年会が札幌で開催されることになりました。本会では従来から活発に展開されてい る基礎薬学研究のみならず臨床薬学研究の発表から、薬剤師の職能を向上させる取り組みや災害時における役割など、基礎から臨床までを広くカバーしています ので、積極的なご参加をお願いします。

 さて、薬剤師教育の基本となる「モデル・コアカリキュラム」には大きな問題点を内包して いることが指摘され、文部科学省主導で新たな「モデル・コアカリキュラム」造りがスタートしたところでもあります。具体的な作業としての調査研究が日本薬 学会に委託され、現在各大学にアンケートをお願いしているところです。その結果を第132年会理事会企画シンポジウム「薬学モデル・コアカリキュラム及び 実務実習モデル・コアカリキュラムの改訂に向けて」で発表する予定になっています。各大学では、その教育内容の約7割で現状の「モデル・コアカリキュラ ム」で決められた内容を教育し、約3割の内容で各大学の特徴を出す教育が行われる事が期待されていました。しかし、現状の「モデル・コアカリキュラム」は 広く・浅く・総花的な内容が含まれ、それだけを教育するのが精一杯であり、各大学が特徴のある薬剤師を養成するための教育を行う時間的な余裕がない状況に なっていると指摘されています。また、実習でも多くの実習現場で実施できない項目、もうすでにどの現場でも行っていない歴史的内容や、現職の薬剤師でも遭 遇しないような希少事例が盛り込まれているなど、日進月歩の新しい医療を実践するための準備教育をする余裕もない実態のようです。従って、本当の意味での 「モデル」とするためには、大学側や臨床現場の声をきちんと取り入れた大胆な内容削減を行うことが必須であると思われます。

 日本は、新規な作用機序を持つ医薬品を開発できる数少ない国の一つであると言われてきま した。典型的な知識集約型産業である製薬産業は、原材料の少ない日本にとって本当は最も得意とすべき領域であるべきでした。しかし、米国との技術比較では いつも10~15年の遅れを指摘され続け、現在の創薬で一般的に使用されている「化合物ライブラリー」、「ハイスループットスクリーニング」、「フラグメ ントベースドドラッグデザイン」などの主要技術や多くの創薬概念はほとんどが欧米発のものです。その反映として、我が国の医薬品・医療機器は毎年のように 輸入超過になっており、最近ではその額が1兆数千億円にも達しています。

 この原因としては、幾つか考えられますがその二つのみを以下に示します。一つ目は、病気 の原因を明らかにするライフサイエンス研究と創薬研究との連携がうまくできていない点です。製薬会社では、最先端のバイオ研究を遂行する研究者を雇ってお くことが経済的に困難であり、アカデミアにこの点を期待するしかありません。欧米のメガファーマといえども同じです。日本のバイオのみならず合成研究者は この点の認識がまだ不十分だと思われます。日本発のバイオベンチャー企業があまり成功しないのはこの反映であるとも考えられます。病気の原因を解明する最 先端バイオ研究と化合物ライブラリーや標的構造を利用する創薬研究に有機合成化学がきちんと連携できるシステム作りがアカデミアにできるかどうかが将来を 左右するのではないでしょうか。その点から、今回、文部科学省の最先端研究基盤事業「化合物ライブラリー」が開始されたのは画期的なことです。この事業で はライブラリーアッセイ用のロボットや種々の測定機器を各拠点にすでに配置し、徐々に研究がスタートし始めています。さらに、来年度からは「創薬等支援技 術基盤プラットフォーム事業(5年間)」として展開される予定になっています。この事業では、大学が持つ最先端の病気の原因となる標的に対する具体的な academic drug discoveryが求められていますが、重要な視点は、その中で創薬に対して十分な知識を持ち、しかも創造力がある人材育成が行えるかどうかにかかって いると思われます。製薬産業が持つ創薬に対するノウハウとアカデミアが持つ最先端の標的候補がうまくマッチできるような意見交換や共同研究の場としての 「プラットフォーム」造りが出来ることを願っています。

 もう一つは、国の創薬に対する戦略的な方針があるかどうかです。米国では、「化合物ライ ブラリー」にしても、「エピジェネテックス」などもNIHが中心となりロードマップを作成し、研究費が集中的に投下されています。抗体医薬を中心とする高 価なバイオ医薬はほとんどが欧米からの輸入ですが、低分子化合物中心の「化合物ライブラリー」のみを創薬研究の中心にせず、バイオ医薬の開発も含む二本柱 で創薬研究を行わなければいつまでたっても医薬品の輸入超過は解消できません。この点については、日本学術会議薬学委員会が「国民の健康増進を支える薬学 研究—レギュラトリーサイエンスを基盤とした医薬品・医療機器の探索・開発・市販後研究の高度化を目指して−」(2011年8月19日)の中で指摘し、第 132年会の組織委員会企画シンポジウム「国民の健康増進へ向けた薬学研究をー日本学術会議薬学委員会提言」として取り上げられます。

 日本の大学の中で薬学部の研究力は相当なものであると評価されてきました。しかし、国立 大学法人化以後、薬学部6年制開始にともなってその研究力は大幅に低下してきているのは事実ではないでしょうか。6年制薬剤師教育に伴う教員増は実現せ ず、基礎系教員のほとんどがこの教育に関与せざるを得なくなるとともに、大学院生数の大幅な減少がダブルパンチになっているように思います。しかし、薬剤 師教育の充実そのものは国民医療の中での医薬品の占める割合を考えると必要なことでありますので更に充実させねばなりません。一方、この薬剤師教育の中で 「問題解決能力の醸成」が必要とされ、そのために卒業実習教育が必修になっています。そこで、この際、「臨床薬学研究」をきちんと定義し、臨床現場から必 要な題材を探し、単なる「アンケート」研究にせずに、できれば基礎薬学研究に裏打ちされた新たな「臨床薬学研究」を作り出してはいかがでしょうか。これに より従来からの我々の強みである基礎薬学研究をも活性化し、日本発の「臨床薬学研究」を構築できれば再び基礎・臨床薬学研究を活性化できるのではないで しょうか。

 このようなことを議論できる場は基礎から臨床までの幅広い教育研究者が一堂に会する日本 薬学会の年会しかありません。札幌で北海道の食材を堪能しながら、熱く薬学の将来を語っていただき、今後の研究教育の発展に役立てていただける事を願って おります。数多くの皆さまのご参加をお待ち申し上げます。