トップページ > 過去のハイライト

過去のハイライト

(内=内海英雄・理事、西=西島正弘・会頭)

西:まずは、PMDAという組織をご存じない読者もいると思いますので、その解説からお願いできますか?

内:PMDAは独立行政法人・医薬品医療機器総合機構」のPharmaceuticals and Medical Devices Agencyの略称で、

  • ① 医薬品の副作用や生物由来製品を介した感染などによる健康被害に対する迅速な救済<救済>
  • ② 治験前から承認まで一貫した指導・審査<承認審査>
  • ③ 市販後における安全性情報の収集、分析、提供<安全対策>

の3本柱(セイフティ・トライアングル)を通じて国民保健の向上に貢献するという目的で2004年に設立されました。医療イノベーションを推進させるためには、アカデミックサイエンスが出口を見据えて研究し社会に貢献することが必要で、これこそが私達が現在最も力を入れて取り込んでいる「レギュラトリーサイエンス」です。

西:「レギュラトリーサイエンス」を「規制科学」と直訳する方がいますが、少し意味が違うのではないかと思います。いかがですか?

内:確かに「規制」という言葉は収まりが悪いですね。「評価・調整」というのが一般的かと思いますが、私はさらに一歩進んで「合意科学」という単語も当てはめたいと思います。決して上から目線の規制ではなく、国民が納得できるための科学という意味です。

西:アカデミックサイエンスを実社会に適応させるとのことですが、もう少し具体的に説明していただけますか?例えば、薬学会はどういう立ち位置になるのでしょうか?

内:私は常々、大学でも「出口を見据えた研究」を意識すべきだと述べています。特に薬学の使命は、医療ニーズに応えることです。どんなに素晴らしい発明発見をしても、それが実社会に役立たなければ意味がありません。大学での研究はベーシックリサーチがほとんどですが、その研究の出口、すなわち医療現場に、その結果をどう結びつけるかをイメージして欲しいと思います。それがレギュラトリーリサーチに結びつくわけですが、薬学会は、その二つのリサーチを橋渡しできる立場にあります。さらに製薬企業とも連携していますし、私達PMDAも行政の立場からできる限りの支援をさせていただきます。

西:ベーシックリサーチとレギュラトリーリサーチの橋渡しということになりますと、まさにトランスレーショナルリサーチということになりますね。

内:はい。そのとおりです。この3つのリサーチ全体に係わることが出来るのは薬学であり、この3Rを是非とも薬学会が積極的に進めて欲しいと思います。

西:最近の新薬を見ますと、分子標的薬、抗体医薬など、これまでにない新しいタイプのものが増えてきていると思いますが、PMDAでは、その流れにどう対処しているのでしょうか?

内:分子生物学の進歩、さらには革新的新薬創出へのインセンティブなどにより、医薬品もより高度な科学をベースに創出されたものが登場してきています。抗がん剤の領域では、バイオマーカーを使って有効性を予測することがリスク回避に重要な役割を演じ始めました。つまり、創薬技術が進化したことで、より高度な分析技術が必要となりました。PETに代表されるイメージング技術はもはや広義のバイオマーカーと呼べるかもしれません。新薬開発には新たな医療機器や検査試薬の併用が必要で、コンパニオン・ダイアグノスティックスと呼ばれるこの概念は現在、大変注目されています。PMDAは、医薬品と医療機器・試薬のいずれの開発・審査にも関わっています。このことはFDAにも無い特長であり、今後ますます重要な役割を担うこととなります。

西:医薬品開発と分子レベルでの診断技術が対となって進むことで、副作用を症状が出る前に察知することも可能となりそうですね。

内:新薬は100%安全とは言えません。何故なら、治験は科学的データを精度良く取得するために一定の条件を満たす患者さんに限定して行われているからです。それゆえ、市販後に思わぬ副作用が出ることも十分ありうるわけです。承認を受けた新薬には、フェーズⅣとも呼ばれる市販後調査が義務付けられており、実際の医療施設で発生する有害事象と有効性のデータが蓄積されていきます。ファーマコビジランスという部署が製薬各社にありますが、ここでは、市販後の安全性データを管理しています。ところが、最近、市販後のみならず、治験の段階から将来の副作用を予測し、リスクに備えようという動きが出てきました。これは、まさに、西島先生がおっしゃった「副作用の察知」というものなのかもしれません。

西:分析化学は、薬学のお家芸でもありますし、学会としてしっかりと出口を見据えていこうと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。