社団法人日本薬学会 The Pharmaceutical Society of Japan 日本語 English
サイト内検索 byGoogle

今月の薬草
イチョウ
Ginkgo biloba Linne ( イチョウ科 )
イチョウ Ginkgo biloba Linne (イチョウ科)花(雌) イチョウ Ginkgo biloba Linne (イチョウ科)花(雄)
花(雌) 花(雄)

イチョウ Ginkgo biloba Linne (イチョウ科)種子
種子
 中国原産。雌雄異株の夏緑広葉樹。各地の寺社や街路樹などに植栽されています。樹高は30mくらい,大木になりやすいために各地で天然記念物として指定されている例も多いです。渡来は不明ですが,室町時代には植栽されていたようです。葉は扇状で波状,中央部分が切れ込んでいます。一般的に切れ込みの程度は,幼木では深く,老木では浅くなる傾向になります。花は春に咲きますが,雄花は尾状につき,雌花は花柄の先端に二個生じます。花粉は受粉後胚珠内に入り,秋に発芽して精子を生じ受精します。この精子の発見は,平瀬作五郎が東京大学小石川植物園の株より見出し,1896年に報告しましたが,この発見は当時,世界中の研究者を驚かせた出来事でした。種子は球状で秋に黄熟し,多肉質の部分は悪臭を放ちます。稀に葉の上に種子を生じることがあり,オハツキイチョウと呼ばれています。
 和名は中国の宋時代に鴨脚と呼ばれていましたが,当時の日本人には「ヤーチャオ」と聞こえていたようです。その後発音は「イーチャオ」に変化し,更にその転訛といわれています。薬用には葉や多肉質を除去した種子を用います。葉は大脳の血流改善作用があるためドイツやフランスなどでは,脳血管障害の改善などの医薬品として利用されています。また多肉質の部分を除去した種子(いわゆるギンナン)は食用とする他,民間薬として鎮咳などに利用しています。
 近年,健康への関心の高まりに伴い,健康食品の売上高は2兆円という巨大産業となっています。日本では法律的な面から健康食品としての位置づけとなっているものでも,ヨーロッパでは医薬品として利用されていることがあります。イチョウの葉は上述のようにドイツやフランスなどで脳血管障害の改善などの医薬品として利用しています。40年くらい前,茨城県内の薬用植物の栽培地を見学した時のことです。畑を見ると,きれいに刈り込まれたイチョウが多くあることに目が留まりました。農家の方に何故このような方法で栽培するのですかと質問したところ,葉をヨーロッパへ輸出するとのことでした。何に使用するのだろうと不思議に思っていましたが,後に医薬品原料とすることを知り驚いたことがあります。
 イチョウの種子の多肉質の部分には皮膚炎などを発症する成分を多く含み,うかつに触れて手がかぶれてしまった経験がある方もいるかと思います。この成分は葉には少ないと言われますが,少量は含まれていることが知られています。イチョウの葉由来の健康食品が日本の薬局やドラッグストアーで販売されていますが,健康食品として利用される際に特にかぶれ易い方は,これら成分が除去されている製品を利用するように心がけてください。(磯田 進・鳥居塚 和生)

< 戻る

公益社団法人日本薬学会 (The Pharmaceutical Society of Japan)
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷 2-12-15 お問合せ・ご意見はこちらをクリック