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今月の薬草
ハマビシ
Tribulus terrestris Linne ( ハマビシ科 )
ハマビシ Tribulus terrestris Linne (ハマビシ科)草型 ハマビシ Tribulus terrestris Linne (ハマビシ科)花
草型

ハマビシ Tribulus terrestris Linne (ハマビシ科)果実
果実
 アジアから東ヨーロッパに分布し,乾燥した砂地や海岸付近などに生育する一年生または二年生草本植物です。日本では本州中部以西の温暖な海岸付近に生育しています。しかし近年,自生地の環境が悪化ししつつあり,そのため各地で生育個体が減少し,各地で絶滅が心配される絶滅危惧種に指定されています。茎は根元で分岐し,這うように長さ1mくらいに伸長します。また茎や葉には白色の粗い毛を生じています。葉は対生し,葉身は3〜7対の羽状複葉です。花は黄色で径1cmくらい,葉の基部より1個生じ夏から秋にかけて咲きます。果実は太く鋭い刺を生じ,分果といって熟すとバラバラになります。そのため素足やサンダルなどで歩くとしばしば刺さることがあり,自生地に住まわれている方々にとっては嫌われものの植物でもあります。
 和名は海岸などの砂地に生育し,果実がヒシTrapa japonica (ヒシ科)のような刺を生じていることからから名づけられました。しかし果実に2本の刺が出ている大きなヒシよりも,果実に4本の刺を生じ,少し小ぶりのヒメビシT. incisa の果実により似ているという感じがします。薬用にはハマビシの果実が用いられます。生薬名をシツリシ(疾黎子)といい,利尿および消炎,解毒薬とします。
 日本では絶滅危惧種に指定されているほど数が少なくなってきたため,海岸から遠い地方に住んでいる人間にとっては,自生している状態の株を目にする機会はあまりありません。筆者の磯田も山梨県に居住しており,せいぜい薬用植物園の標本園で見るぐらいです。ところが海岸のない内陸で,このハマビシを目にする機会がありました。中国の甘粛省北西部にある「鳴沙山と月牙泉」を見学した時のことです。ご存知のように平山郁夫画伯はシルクロードをテーマにされた作品を描くため,何度もこの地を訪れたということです。タクラマカン砂漠という砂の海に忽然と現れるオアシスは画伯ばかりではなく,芸術とは縁の遠い筆者のような人種であっても魅了されます。オアシスですから灌水が行われている場所は緑が保たれていますが,一歩そこから離れると植物の生育はまったく不可能な環境です。微細で砂時計に使用されている砂のようなタクラマカン砂漠で,砂に埋まりながら這いつくばって生育しているハマビシを見つけました。おそらく砂地の下には植物が生育できる最低限の水分が存在するのだろうと思われますが,思いがけずこのハマビシを見つけ驚きました。また同時に,このような過酷な自然環境下でも,逞しく生きている様子を垣間見た思いがしました。(磯田 進・鳥居塚 和生) 

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