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今月の薬草
マクサ(テングサ)
Gelidium elegans Kuetzing ( テングサ科 )
マクサ(テングサ) Gelidium elegans Kuetzing (テングサ科)テングサ マクサ(テングサ) Gelidium elegans Kuetzing (テングサ科)テングサの感想風景
テングサ テングサの感想風景

マクサ(テングサ) Gelidium elegans Kuetzing (テングサ科)カンテンの凍結乾燥風景
カンテンの凍結乾燥風景
 日本各地の海岸付近に分布し,干潮(低潮)の海面から5〜10mの岩上や潮溜まりなどに生育する紅藻類です。藻体は叢生して硬く,4〜5回羽状に枝分かれしていますが,海水中で生育している状態では海水に揺られて柔軟な形状に見えます。また外形は生育環境によってかなり変化し,時には別種に見えることもあります。採取したマクサは,真水でよく洗ってから天日干しします。更に水を散布しながら乾燥させると,初め赤紫色を呈していたテングサは脱色し淡黄褐色になっていきます。
 和名のマクサは真の(天)草という意味があり,最も品質の良い寒天の製造原料ということで名づけられました。因みにテングサとは天草と表記しますが,その語源は古名のトコロテングサからの転訛といわれています。薬用にはマクサなどを煮出し,含有している多糖類が溶け出した粘液を凍結させた後,脱水乾燥させたものを用います。生薬名をカンテン(寒天)といい,懸濁化剤や増粘剤,研究用の培地などに用います。因みに寒天の原料としては本種の他,オオブサやキヌクサ,オニクサなどの同属紅藻類,オバクサなどの異属近縁種も利用しています。それぞれの種は多糖類の種類や含有率が異なっているため,微妙に調整し製品の粘度を決めているということです。
 カンテンの製法が発明されたのは,偶然の出来事からであったようです。薩摩藩第二代藩主の島津光久(1616-95)が参勤途上の折り,京都伏見に宿泊した時のことです。食事に出したトコロテン料理の食べ残しを料理人が冬の戸外に捨てましたが,数日後に宿主の美濃屋太郎左衛門が白い乾物になっていることに気がつきました。その白い乾物をテングサと同様に水で煮て冷ましたところ,元のトコロテンと同じものが出来上がったところから,現代に伝わる製造方法が考案されたといわれています。
 このためにマクサなど原料の生産地は、静岡県の伊豆半島などの海岸の地域ですが,カンテンの生産地は、長野県の諏訪地方や岐阜県の東美濃高原などであり、冬期の気温が低く雪の少ない土地が生産地となっています。しかし最近は,天候に左右されず,年間を通して製造することができることから、冷凍機で凍結させ工業的に製造することが多くなりました。カンテンを太い糸状に押し出し,酢醤油と和辛子,または蜜(みつ)をかけた食品をトコロテンといいます。このトコロテンとは,「和名類聚抄」(934)に記載されている心太(ココロブト)の転訛といわれ,日本独特の食品でもあります。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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