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今月の薬草
ヤマザクラ
Prunus jamasakura Sieb. ex Koidz. ( バラ科 )
ヤマザクラ Prunus jamasakura Sieb. ex Koidz. (バラ科)花 ヤマザクラ Prunus jamasakura Sieb. ex Koidz. (バラ科)樹皮
樹皮

ヤマザクラ Prunus jamasakura Sieb. ex Koidz. (バラ科)狩宿の下馬桜(国の特別天然記念物)
狩宿の下馬桜(国の特別天然記念物)
 本州以南に分布し,山地に生育する夏緑広葉樹です。また観賞用に公園などに植栽されています。現在ではサクラといえばソメイヨシノを一般には思いおこします.しかしながらソメイヨシノは,江戸時代末期に江戸の染井(現在の豊島区駒込付近)で発見され,その鮮やかな花の咲き方が好まれ,それから広く各地で植栽されるようになりましたので,それまではサクラといえばヤマザクラが一般的でした。樹高は10mくらいになり,樹皮は横縞模様の皮目があり暗褐灰色を呈しています。葉は互生し,葉身は倒卵形で先端は尖り,縁には細かい鋸歯があります。また葉柄の上部には2個の蜜腺を生じます。芽生えは赤褐色を帯びることが多く,花と同時に出葉します。花は淡紅白色で散房状に数個ついて春に咲き,果実は球状で黒紫色に熟します。また花柄は無毛で基部に小さな苞葉を生じます。
 和名は山地に生育するサクラの意味があります。薬用には樹皮(薬学では木部と師部の間に位置する形成層から外側の部分を指しますが,植物学の分野ではコルク層を指しています)を用います。生薬名をオウヒ(桜皮)といい,鎮咳去痰や気管支炎の改善を目的とした製剤原料とします。また打撲や捻挫の改善を目的とする漢方処方の十味敗毒湯などに配剤しているボクソク(樸?:クヌギなどの樹皮)の代用として,江戸時代末期の医師である華岡青洲(1760-1835)は,このオウヒ(桜皮)を用いています。 
 丁寧に剥ぎ取ったコルク層は,磨くことによって独特の模様と深みのある渋味を生じ,秋田県の伝統工芸品である樺細工の材料として珍重されています。民芸運動の指導者であった柳宗悦(1889-1961)も,その素晴らしさに魅了された一人といわれています。あまり太く肥大した幹の樹皮は,ひび割れしていることが多く,利用可能な部分は少なくなり素材としてはあまり適していないようです。そのため一部の製品を除き,印籠や茶筒,銘々皿などの小物が一般的です。因みに最近は自然保護やエコロジーに関心が集まっていますが,樺細工として利用する場合はコルク層だけを剥ぎ取りますので,その後の生育にはほとんど影響しません。また野生株を利用するだけではなく,植林を行って材料を確保しているようです。まさにエコな自然の有効利用といえます。(磯田 進・鳥居塚和生)

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