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今月の薬草
ゴボウ
Arctium lappa Linn. ( キク科 )
ゴボウ Arctium lappa Linn. (キク科)花 ゴボウ Arctium lappa Linn. (キク科)収穫風景
収穫風景

ゴボウ Arctium lappa Linn. (キク科)収穫後
収穫後
 ヨーロッパから中国,シベリアにかけての地域原産の二年生草本植物ですが,北アメリカやオーストラリアなどでは雑草として帰化しています。日本へは古い時代に薬用として渡来しました。草丈は1.5〜2mくらいに達し,上方で分岐します。葉は地際から生じ,長い柄をつけます。葉身は大形の心臓形で裏面には灰白色の綿毛を密生し,根は直根性です。花は赤紫色を呈して夏に咲き,頭花はアザミにとてもよく似ており,直径は4.5cmくらいになります。また果実は長卵形ですが,一見すると種子のように見えます。根は細長く根菜類として,また若く柔らかい葉は食用として利用します。しかし食用としている国は日本や朝鮮半島の一部だけのようです。
 和名は漢名の牛蒡を音読みしたものです。薬用には成熟した果実を用い,感冒や咽頭炎を改善する駆風解毒湯や柴胡清肝湯などの漢方処方に配剤されています。また民間薬として果実を利尿,解毒薬として利用します。
 日本では渡来後,その根がもつ独特な香りや風味が好まれ,きんぴらゴボウやお煮しめなどの具として和食の素材としてなくてはならないものとなっています。一般的には「滝野川」などの細長い品種が多く栽培されていますが,中には直径が20cm近くに肥大する「大浦」といった品種も育成されています。収穫は根を傷めないよう深く掘り取るため,過酷な農作業となっています。近年では農家の負担を軽減するため,トレンチャーなどの専用の農機具が用いられるようになってきました。野菜としてのゴボウの独特の香りはおもに根の表面近くの組織に含まれています。従ってゴボウの風味を堪能されたい方はきれいに洗った白っぽいものを購入するより,新鮮で泥がついている状態のものを調理間際に洗うことをお勧めします。
 このように日本では根を根菜類として日常的に利用していますが,原産地のヨーロッパや帰化している北アメリカなどでは野草あるいは畑などの雑草でしかありません。このような文化的背景の違いが,事件になった例があります。第二次大戦の際に日本の捕虜になったアメリカ兵に,日本人と同じ食材を使い食事を提供していましたところ,戦後の戦争裁判では,「捕虜虐待罪」に問われました。ゴボウを食事に提供したという行為が,捕虜に木の根を食べさせたと解釈され,無期懲役の判決を受けてしまったのです。食文化の違いといってしまえば簡単ですが,ゴボウを食べたことがないために当時の陪審員にいくら説明しても理解してもらうことができなかったようです。たかが野菜と笑うことのできない事件といえましょう。(磯田 進・鳥居塚和生)

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