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今月の薬草
マツホド
Wolfiporia cocos Ryvarden et Gilbertson ( サルノコシカケ科 )
マツホド Wolfiporia cocos Ryvarden et Gilbertson (サルノコシカケ科)菌核 マツホド Wolfiporia cocos Ryvarden et Gilbertson (サルノコシカケ科)マツホドを探し出す道具
菌核 マツホドを探し出す道具

マツホド Wolfiporia cocos Ryvarden et Gilbertson (サルノコシカケ科)菌核が付着している状態
菌核が付着している状態
 日本や中国,北アメリカ,オーストラリアなど世界各地に分布していますが,おもにマツの根に寄生している担子菌類です。しかしマツに限らず,モミ属やスギ属,モクレン属,ミカン属,コナラ属,ユーカリ属,ウルシ属などにも寄生することも報告されています。解説書などには伐採後,3〜5年経過したマツの根に形成されると記述されていることがありますが,私の経験では生育中のマツの根に寄生していることを何度か確認しています。菌核は不定形の塊状で,径10〜30cm,外面は暗褐色から赤褐色を呈し,新鮮な菌核の内部は白色となっています。子実体は稀に外面に形成されます。この子実体の発見は意外に新しく20世紀に入ってからといわれています。子実体は全背着生といって,いわゆる傘状のキノコは生じないため発見が遅れたようです。
 和名はマツの根に寄生し,菌核が塊状になることから名づけられました。この「ホド」とは塊状を意味しています。薬用には塊状の菌核を用い,生薬名をブクリョウ(茯苓)いい,通常は外層を取り除いて利用します。しばしば菌核は生育の段階で根を抱き込んでいることがあり,その状態で加工した生薬を特に「茯神」といって尊ばれています。因みに生薬名の茯苓は本草綱目(1578)によると,史記(前91)に「マツの神霊の気が伏結して生じたもので伏霊と名づけた」と記されているということです。その後,転写の誤りによって茯苓になったということです。ブクリョウは利尿薬や尿路疾患用薬,精神神経用薬とみなされる五苓散や加味逍遙散などの漢方処方に配剤されますが,ブクリョウ単独で用いることはありません。
 古い話になりますが,50年くらい前は当たり前であった納豆売りやバナナの叩き売り,鍋の穴埋め修理などを生業とされていた人たちも,気がついた時には見かけなくなってしまいました。一般的に見かけることは少なかったと思われますが,マツホドの採集を生業とされた「茯苓突き」もそのような方々でした。長年の経験と鋭い勘で,鉄製の尖った棒でマツの根元近くを突き刺し,その感触でブクリョウを見つけ出したということです。しかし安価な中国や朝鮮半島からの輸入が一般的になり,その神業的な「茯苓突き」の技が途絶えてしまったことに一抹の寂しさを禁じえません。(磯田 進・鳥居塚和生)

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