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今月の薬草
チャノキ
Thea sinennsis LINNE (Camellia sinennsis O. Kuntze) ( ツバキ科 )
チャノキ Thea sinennsis Linne (ツバキ科)芽生え チャノキ Thea sinennsis Linne (ツバキ科)花
芽生え

チャノキ Thea sinennsis Linne (ツバキ科)実
 中国の雲南省には樹齢800年以上のチャノキの老木が知られています。原産地は諸説ありますが,この老木があることから原産地は中国雲南省説が最有力です。日本へは臨済宗の開祖である栄西(1141-1215)が,建久2年(1191)に中国から種子を持ち帰ったのが最初といわれています。その後,日本各地で栽培されるようになりました。本来,樹高は3〜4mになる常緑の低木ですが,栽培では収穫作業の効率化を考慮し1mくらいに刈り込んでいます。葉は互生し,葉身は広楕円形でやや厚みがあります。花は白色で雄しべの葯は黄色く多数生じ,秋から初冬にかけて咲きます。果実は扁球形で翌年の晩夏から秋に熟し,暗褐色の種子を3個生じます。
 和名は漢名の「茶」を音読みしたもので,嗜好飲料として親しまれています。薬用には同様に葉を用います。生薬名をサイチャ(細茶)といい利尿薬とするほか,カフェインの抽出原料とします。カフェインは風邪薬などに配剤されますが,近年では天然のものと入れ替わり,化学的に合成したものが多くなってきました。一方,チャ葉に含まれるカテキンにガンの予防や,抗ウイルス,消臭などの効果があることが注目され,むしろ健康食品あるいはサニタリー商品といったものへのチャの利用が多くなっています。
 日本ではお茶といえば緑茶を意味していることが多いようです。立春から数えて88日目(5月上旬)は八十八夜といい,その季節になると遅霜の心配もなくなって大変品質のよい若葉が収穫できるということです。そのため茶摘みの最盛期であり,初夏の季語となったり,風物詩ともなっています。一昔前には,茶どころ静岡や鹿児島などでは,かすりの着物に色鮮やかな茜色のたすきで締めた娘さんたちがお茶になる若葉を摘んでいました。唱歌「茶つみ」に「心のどかに摘みつつ歌ふ 摘めよ 摘め摘め摘まねばならぬ 摘まにゃ日本の茶にならぬ」と謡われています。近年は機械化が進み,手摘みが行われているのは,玉露などの高級なチャ葉や斜面で機械を入れることが出来ない特殊な茶畑など,またイベントだけとなってしまいました。実は茶摘みは,のどかな光景とは裏腹に,日が昇る朝から日が沈む夕方まで行われるため過酷で大変手間隙のかかる農作業なのです。多くの方々のお手間に感謝しながら,今日もおいしいお茶を頂戴しましょう。(磯田 進・鳥居塚和生)

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