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今月の薬草
ヒヨス
Hyoscyamus niger LINN. ( ナス科 )
ヒヨス Hyoscyamus niger Linn. (ナス科)花
 ヨーロッパ原産。薬用として栽培する1〜2年生草本植物です。アメリカやカナダでは路傍や荒地などに帰化していますが,日本では薬用植物園などで見本展示用に栽培しています。草丈は0.5〜1.0 m,株全体に粘り気のある腺毛を生じ,特有の臭いがあります。葉は互生し,葉身は長さ20〜30 cmの卵状ひ針形から広卵形で周囲は浅裂し,葉柄がないため葉は茎を抱くようについています。花は夏に咲き,ロート状で灰黄色を呈し先端は5裂しています。また花冠の中央部は暗紫色となり,網目状の脈を生じています。果実は萼に包まれ,灰褐色の小さな種子を多数生じます。
 和名は学名(属名)の前半分を用いたものです。因みに学名(属名)のHyoscyamusとはブタの豆という意味があります。本植物には幻覚症状などの強い毒性が知られていますが,中毒により人間の理性を損なうような行動をすることもあることから,人格を蔑視してブタに例え名づけられたということです。また子供たちに,恐ろしい魔女が用いる悪魔の毒草であるといい,決して口にしてはいけないことを示すために名づけられたとか,あるいは人間だけではなくブタにも毒性があることから名づけられたからなど,幾つかのいわれがあります。薬用には,かつて葉またはそのエキスを用いていました。しかし生育環境などにより有効成分の含有量が一定していない欠点があり,現在は有効成分のみを精製・単離し,鎮痛薬や鎮静薬などを目的とした硫酸アトロピンや臭化水素酸スコポラミンなどの製造原料とします。
 本植物に含まれている有効成分は作用が激しいため,薬剤による中毒事故を未然に防ぐ意味からも,手の届き難いところに区別して置かれます.また使用に際しては,希釈した濃度の製剤を用い,用量には細心の慎重さが求められています。これらと同様の成分を含む植物には,観賞用に栽培するエンゼルス・トランペットなどのダツラ類があります.しかしながら一般には,観賞用という思い込みからか,その毒性に対しては意外と無頓着のような気がします。植物に直接触れた手で不用意に目を擦ると瞳孔を散大してしまう恐れがありますし,飲み込んでしまった場合には重篤な状態に陥る場合があります.何でも口にする小さなお子さんがいらっしゃるご家庭などでは,十分な管理と注意が必要です。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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