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今月の薬草
アカメガシワ
Mallotus japonica Muell. Arg. ( トウダイグサ科 )
アカメガシワ Mallotus japonica Muell. Arg. (トウダイグサ科)雌花 アカメガシワ Mallotus japonica Muell. Arg. (トウダイグサ科)雄花
雌花 雄花

アカメガシワ Mallotus japonica Muell. Arg. (トウダイグサ科)芽生え
芽生え
 本州以南から中国にかけての地域に分布し,温暖な丘陵地に生育している夏緑広葉樹です。芽生えや若い葉は鮮紅色の星状毛を密生していますが,成長するに従い毛は脱落するため葉色も本来の緑色になります。葉は長い柄を持ち,葉身は倒卵形で,しばしば浅く2〜3裂しています。雄株と雌株があり,花はそれぞれ花びらがなく,夏に咲きます。雄花は淡黄色ですが,雌花は初め赤味を帯び後に淡黄色になります。果実は三角状の球形で柔らかい刺を生じ,種子は扁球形で黒紫色に熟します。同じ仲間の植物には,日本薬局方第8改正まで収載され果実の腺毛を条虫駆除薬として利用するカマラ(基原植物はクスノハガシワ M. philippinensis)があります.これは現在ではヒトに用いるよりも,ペットブームということもありペット用の需要が多くなりました。
 アカメガシワという和名は芽生えが赤味を帯び,大きな葉を器として利用し食べ物を盛ったことからカシワと名づけられました。そのためゴサイバ(御菜葉),ミソモリなど,各地で器を意味するその地方独特の名で呼ばれています。薬用には樹皮を用います。生薬名もアカメガシワといい,胃潰瘍や十二指腸潰瘍など治療薬に用います。また葉や種子は紅色の染料として利用できます。
 日本に分布し生育する夏緑広葉樹は,冬季の寒さや乾燥から芽を保護するため,多くは芽鱗と呼ばれる鱗片状に変化した葉を持ち,芽を守っています。芽鱗は樹木の種類によって数や形態が異なり,コナラやクヌギなどでは20枚以上あります。またヤナギの仲間では鉛筆のキャップのような芽鱗が1枚しかありません。一方,辛夷の基原植物の一つであるコブシは,ビロード状の毛が表面に密生した2枚の芽鱗をもっています。しかしこのアカメガシワには芽鱗はありません。
 一般的に温暖な地域で進化したと考えられる植物の多くは,生育環境の厳しい冬に葉を落とすことによって温帯に適応し分布域を広げてきました。芽鱗の数が多ければ冬の寒さに強いという訳ではありません。しかしアカメガシワのように冬芽を保護する芽鱗がない種類も意外に多く見られます。今年の冬はルーペを片手に,樹木の冬芽を観察してみてはいかがでしょうか。実に変化に富んでいる冬芽を観察することができるに違いありません。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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