社団法人日本薬学会 The Pharmaceutical Society of Japan 日本語 English
サイト内検索 byGoogle

今月の薬草
チョウジノキ
Syzygium aromaticum MERRILL et PERRY ( フトモモ科 )
チョウジノキ Syzygium aromaticum MERRILL et PERRY (フトモモ科)花 チョウジノキ Syzygium aromaticum MERRILL et PERRY (フトモモ科)つぼみ
つぼみ
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
インドネシアのモルッカ諸島原産の常緑の高木です。別名をクローブといいます。香辛料や薬用としてザンジバル,マダカスカル島などのアフリカ東海岸で栽培されています。日本でも薬用植物園や一般の植物園の温室で展示用として植栽されています。葉は卵状長楕円形で対生し,光沢があります。花は枝の先端につき,咲き始めは白色ですが,後に淡紅色を帯び,強い芳香があります。果実は楕円状で黒紫色に熟します。
 和名は生薬の「丁子」をそのまま音読みしたもので,つぼみの形が「釘」によく似ているため,同じ発音をする「丁」という字に当て「丁字」にしたということです。薬用には,紅褐色を帯び始めた開花少し前のつぼみを用います。生薬名もチョウジ(丁子)といい,産前産後の神経症や月経不順の改善に用いる女神散などの漢方処方に配剤されています。また芳香性健胃薬,丁字油原料,肉料理などの香辛料,歯科領域では鎮痛剤として幅広く繁用されています。日本への渡来は定かではありませんが,奈良の東大寺で開催された大仏開眼会(752年)に使用されたとの記録がありますので,この時代には既に渡来していたようです。しかし薬物として用いられたものではなく,香料として儀式に用いられたと推測されています。また正倉院には,当時用いられていた丁字がそのまま保存されて今に至っているということです。
 植物の和名にチョウジという名を冠した植物名がいくつかあります。例えばサクラの仲間のチョウジザクラです。本州中部以西の山地に生育している落葉低木ですが,花はがく筒が長く,垂れ下がって咲く様子が丁字に似ていることから名づけられました。またアカバナ科のチョウジタデは各地の水田や湿地に生育している一年草ですが,こちらも花の丁字に見立て,全体的な雰囲気がタデに見えることから名づけられました。このように身近に見られる植物にその名を冠したことは,丁子は芳香剤や香辛料,医薬品,金属の防腐剤などとして,日々の生活に深く関わっていた証でもあります。(磯田 進・鳥居塚 和生

< 戻る

公益社団法人日本薬学会 (The Pharmaceutical Society of Japan)
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷 2-12-15 お問合せ・ご意見はこちらをクリック