社団法人日本薬学会 The Pharmaceutical Society of Japan 日本語 English
サイト内検索 byGoogle

今月の薬草
ミシマサイコ
Bupleurum falcatum LINN. ( セリ科 )
ミシマサイコ Bupleurum falcatum LINN. (セリ科)花
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 本州以南の各地に分布し,日当たりのよい山野に生育する多年生草本植物です。葉は互生し,葉身は広線形から長ひ針形,葉脈は平行脈状となっています。花は黄色で小さく,複散形状について夏から秋にかけて咲きます。果実は球状で,褐色に熟します。根はやや肥厚し,特有の香りがあります。
 和名は静岡県東部の三島地方で産出したものが,生薬のサイコ(柴胡)として大変品質がよいことから名づけられました。薬用には根を用います。生薬名は前述のようにサイコ(柴胡)といい,精神神経用薬や消炎排膿薬とみなされる漢方処方に配剤されています。かつては野生品を採取して薬用に利用していましたが,需要の拡大を補うため現在では栽培品を利用しています。薬としての利用のためとはいえ,採取過多となってしまったため,自然の状態では絶滅が心配されているレッドリストにリストアップされる植物となってしまいました。100年後には野生のミシマサイコは完全に消滅すると試算されています。現代のような環境の変化が早い時代には植物も住み難いのでしょうか?このような危機的な状態が現実のものとなってしまわないように,私たちも自然保護に関心を持ちたいものです。
 芭蕉の句に,「陽炎や 柴胡の糸の 薄曇り」というものがあります。白銀色を呈した糸状の毛が,明るい春の日差しによって生じた陽炎により,おぼろげに見えてしまう様子を詠ったもので,春の季語として陽炎や柴胡があてられています.しかしミシマサイコの植物体には糸状の毛なども生じませんので,この句の「柴胡」は現在のミシマサイコを指したものではありません。時代と共に名称が変化することは,植物名においても多々おこります。キンポウゲ科のオキナグサもその一つで,江戸時代には「赤熊柴胡」と呼ばれたこともありました。芭蕉の句にある柴胡とは,じつはオキナグサを指しているのです。「柴胡」という漢字表記のみが一人歩きし,今でも混同誤認してしまった説明が見られるのは残念でなりません。(磯田 進・鳥居塚 和生)

< 戻る

公益社団法人日本薬学会 (The Pharmaceutical Society of Japan)
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷 2-12-15 お問合せ・ご意見はこちらをクリック