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今月の薬草
ハマボウフウ
Glehnia littoralis FR. SCHMIDT EX MIQUEL ( セリ科 )
ハマボウフウ Glehnia littoralis FR. SCHMIDT EX MIQUEL (セリ科)花
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 海岸の砂地に生育し,草丈が10〜30cmの多年生草本植物です.茎は白黄色で強い芳香があり,砂地に深く埋まっています.葉は厚く光沢があってやや硬く,長さ10〜20cmで1〜2回3出羽状複葉となっています.花は6月から7月に咲き,小さく白色から淡紫色で複散形状につきます.また花序全体に白色の柔毛が密生しています.果実は倒卵形で長く柔らかい毛を密生し,種子はコルク状になって浜辺に飛散したり,海上に浮いて分布域を広げます.ハマボウフウは砂中に深く根を張り,結果的に砂の移動を防いでくれています.近年,砂浜の環境悪化により絶滅が心配されているほどその個体数が激減し,自生地の保護を検討する自治体も増えています.
 和名は浜辺に生育し,中国原産の防風(Saposhnikovia divaricata)の代用として用いられたことから浜防風の意味で名づけられました.またハマボウフウの柔らかく香りの高い若葉は,高級な食材としても好まれることから,別名をヤオヤボウフウ(八百屋防風)ともいいます.生薬名もハマボウフウといい,根および根茎を解熱や鎮痛薬として利用することがあります.入浴剤としても利用でき,含まれている精油は血行を良くし,湯冷めし難いといわれています.なお防風とは植物的にも,品質的にも異なっているところから,現在では別の生薬として取り扱われています.
 一般的に生薬としてのハマボウフウはあまり馴染み深いものではないと思います.しかしながら食材としては,しばしば目にしているのではないでしょうか.和食の主菜などにツマとして添えられることが多いためか,目にしても気付かず記憶に残ることは少ないようです.次に会食などの席がありましたら,お造りやお吸い物などに添えられている葉の柄が赤味を帯びた柔らかいハマボウフウの葉を,一度口にしてみてください.口の中にほろ苦い野趣豊かな風味が広がり,箸休めならぬ口休めとなるに違いありません.江戸時代頃は野生品を採取して用いていたようですが,需要の拡大に伴い明治時代以降は栽培されるようになったということです.(磯田 進・鳥居塚和生)

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