社団法人日本薬学会 The Pharmaceutical Society of Japan 日本語 English
サイト内検索 byGoogle

今月の薬草
エンジュ
Sophora japonica LINN. ( マメ科 )
エンジュ Sophora japonica LINN. (マメ科)花
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 中国北部原産。時代は定かではありませんが,日本へはかなり古い時代に薬木として渡来しました。公害にも比較的強いため,街路樹や庭木として各地で植栽されている落葉高木です。葉は羽状複葉で,互生しています。花は盛夏から初秋にかけて咲き,淡黄白色で総状に多数つけます。そのため花が散ると根元付近は淡黄白色の絨毯を敷いたような光景になることも珍しくはありません。果実は円柱状でインゲン豆の莢に似ていますが,種子の間がくびれて数珠状となって枝分かれしながら下垂し,熟しても開裂することはありません。名前が似ている植物に,分類学的には別属のイヌエンジュがあります.本州以北の山地や河岸に生育していますが,こちらの果実は扁平で垂れ下がりません。
 和名は,古名の恵爾須(えにす)が転訛したといわれています。この恵爾須とは,同じマメ科の別属に分類されているイヌエンジュを指していますが,林業や造園関係者は今でもイヌエンジュをエンジュと呼んでいたり混乱があるようです。また中国原産の樹木にも関わらず学名の種小名に"japonica"と記載されています。これは古い時代から植栽されていたため,日本原産と誤認してしまったようです。日本では薬用に蕾を用いますが,中国では果実も用います。生薬名は前者をカイカ(槐花),後者をカイジツ(槐実)またはカイカク(槐角)といい,ともに止血作用があるとされ,痔や血便があるときに用います。またカイカには,毛細血管強化作用があり,脳出血や高血圧にも効果があるルチンが多く含まれていることも知られています.
 語呂合わせから,縁起がよいとしてお正月など飾られる植物があります.例えば,災難を転じるとしてナンテン(難転)や,お金に困らないようにセンリョウ(千両)・マンリョウ(万両)などが飾られます。これらの植物は名前もさることながら,赤い実は殺風景な冬の季節に彩りを添えますので,皆さんの中にも玄関や床の間に飾られた方は多いと思います。さて,このエンジュですが,中国の最高の官職であった太師,太傳,太保の三公の執務する朝廷内の庭に植えられていた,という故事があります.そのため,古来より高貴な樹木の一つとして尊ばれてきました。また日本でもエンジュは「延寿」に通じるため,とても縁起のよい樹木と言い伝えられ各地で植栽されています。(磯田 進・鳥居塚 和生)

< 戻る

公益社団法人日本薬学会 (The Pharmaceutical Society of Japan)
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷 2-12-15 お問合せ・ご意見はこちらをクリック