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今月の薬草
ヒナタイノコズチ
Achyranthes fauriei et LEVEILLE VANIOT ( アサ科 )
ヒナタイノコズチ Achyranthes fauriei et LEVEILLE VANIOT (アサ科)
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 北海道を除く,日当たりのよい原野に生育している多年生草本植物です。根は白色を帯び,やや肥大しています。茎は四角形で節はやや膨らみ,赤紫色を帯びています。花は緑色で小さいためあまり目立ちませんが,夏から秋にかけて茎の先端に穂状に咲きます。果実は長楕円形,成熟すると簡単に脱落し,衣服などにつきやすくなります。和名は日当たりのよい路傍や原野に生育するイノコズチという意味があります。イノコズチとは茎の太くなった節が,イノシシの子供の膝に似ていることから名づけられました。生薬としては,このヒナタイノコズチの根を用います。近縁のイノコズチは日陰に生育することが多く,根があまり肥大しないため薬用には用いません。生薬名をゴシツ(牛膝)と言いますが,これも節を牛の膝に例えたもので,婦人科疾患を目的とした牛膝散(ゴシツサン)や牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)などの漢方処方に配剤される重要な生薬の一つです。
 「暑さ寒さも彼岸まで」といわれるように,清々しい秋風が吹く頃になると日頃の運動不足を解消しようと,郊外の野山へハイキングに出かける方が多くなってきます。楽しいハイキングもしばしば衣服に野草の実が所かまわずひっつき,取り除くのに苦労する経験をした方もいることでしょう。特に毛糸の靴下にひっついた実は,腰をかがめて取り除かなければならず結構大変な作業です。衣服にひっつきやすい実を俗に「ひっつき虫」といいますが,イノコズチなどは刺状の苞がヘアピンの様に衣服の繊維を強固に挟み込んでひっつきます。私たちの衣服にひっついて,これらの実は散布されその分布域を広げています。正に自然の妙技といえましょう。同様の技はヤブジラミやダイコンソウの鉤状の実,センダングサ類やヤブニンジンの実の逆向きの小さな刺によるものなどに見られます。
 ヒナタイノコズチは花も目立たず比較的地味な植物ですが,このように「ひっつき虫」として意外になじみ深い植物でもあるようです。ところでヒナタイノコズチには,このほかにも興味深いことが知られています。一つは,名称の由来にもなった茎の節ですが,著しくコブ状になっている場合は,時々その内部にイノコズチウロコタマバエなどの昆虫の幼虫が寄生していることがあることです。また一つは,この植物の持つ成分が,昆虫の脱皮などをコントロールする昆虫変態ホルモンと同一であることです。昆虫がこの植物を食べて変態する訳ではありませんが,植物から初めて単離され専門家の注目を集めました。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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