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今月の薬草
チガヤ
Imperata cylindrical Beauvois ( イネ科 )
チガヤ  Imperata cylindrical Beauvois (イネ科)花
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 各地の原野や草地に普通に見られ,しばしば群生する多年生草本植物です。根茎は細長く地中を横に這い,白色で所々に節があります。その節からはヒゲ根と芽を出すため,一度畑などに蔓延するとその旺盛な繁殖力から駆除は大変な作業になり,農家の人たちからは嫌われ者となっています。草丈は60cmくらい,葉は線形で先端は尖っています。葉に先立ち晩春に,白い光沢のある毛を密生させた花を穂状につけます。初夏になって果穂の毛が開き,風にたなびく様はよく目立ちとても風情があります。
 和名は群生して生育していることが多いところから,千(チ)の茅を意味しています。茅は屋根に葺くイネ科植物の総称ですが,チガヤは草丈が低いことからあまり利用されず,一般的には草丈の高いススキなどを用います。薬用にはヒゲ根や鱗片葉を取り除いた根茎を用います。生薬名をボウコン(茅根)といい,利尿薬や消炎薬,止血薬とします。
葉から出ていないまだ若い花穂をツバナ(茅花)といいますが,少し甘味があるため万葉集にも野辺の若い花穂を食用にしていた様子が詠まれています。また江戸時代にも子供のおやつに売られていたということです。子供の頃,遊びに興じてお腹が空いてくると,野草の芯芽を抜いてかすかに甘く柔らかい芯をかじった記憶があります。今となってはその植物がどのような種類であったかは定かではありませんが,おそらくチガヤであろうと想像しています。砂糖が貴重品であったころの僅かな甘味を懐かしく思い出されるかたもいるのではないでしょうか。チガヤは分類学的にはサトウキビと比較的近い類縁関係にあるため,多少なりとも葉で合成された糖分を貯蔵する性質があるのかもしれません。
また古来よりチガヤには,厄よけの効果があると信じられてきました。そのため6月の晦日に,チガヤやススキなどで作った輪をくぐり,無病息災を願う「茅輪(ちのわ)くぐり」という風習が各地で受け継がれています。中には高さ4〜5mにもなる大きい輪を作る地方もあり,盛夏を迎える6月の風物詩ともなっています。
(磯田 進・鳥居塚和生)

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