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今月の薬草
コカノキ
Erythroxylon coca LAM. ( コカノキ科 )
コカノキ  Erythroxylon coca LAM. (コカノキ科)花 コカノキ  Erythroxylon coca LAM. (コカノキ科)葉

コカノキ  Erythroxylon coca LAM. (コカノキ科)果実
果実
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 コカノキはペルーやボリビア,コロンビア原産の低木です。形態が生育地ごとに少しずつ異なり数種類に分類されています。葉は楕円形で噛むと僅かに苦味を生じ,裏面には主脈に平行な2本の模様が入っているのが特徴です。花は小さく,花びらは黄緑白色を呈し,果実は卵状長楕円形で紅熟します。
 葉に含まれているコカイン(cocaine)は局所麻酔作用があります。中枢神経に対しては,強い興奮作用があり,陶酔感や筋肉の疲労感を覚えなくなる作用があります。しかしながら連用や乱用によって幻覚,妄想を生じ,効果が切れると抑うつ状態から無気力状態に陥りやすくなり精神的依存性などの薬物中毒となることも明らかとなっています。
 もともとコカノキは南アメリカのアンデス地域に栄えたインカ帝国で宗教的な儀式に用いていたものです。またこの葉を噛むことで疲労回復や気分爽快感を味わえるため,過酷な環境の高地で生活するインカの人々にとっては,肉体的,精神的な疲れを癒し重労働に耐えるためには無くてはならないものでした。その後,スペイン人によりその存在が知られるようになると,ヨーロッパに知れ渡っていきました。そして疲労回復や気分を爽快にする作用を利用してコカを配合して作られた嗜好品などが売り出されました。その当時はコカノキに対する知識がなかったため,多くの人たちが薬物中毒に悩まされたということです。
 連用によって薬物依存がおこりやすいことから,今ではコカノキは「麻薬及び向精神薬取締法」の対象植物に指定され,法律によって栽培や所持は厳しく規制されています。日本では特別に許可された研究機関の温室などで栽培されているに過ぎず,一般の方が直接目にする機会はほとんどありません。とはいえ薬用植物として重要であり,コカインは眼科領域における表面麻酔薬として主として目薬や軟膏などに配剤され用いられています。またコカインを参考にして,より毒性の低い様々な局所麻酔薬が開発されました。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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