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今月の薬草
カラスビシャク
Pinellia ternate BREIT. ( サトイモ科 )
カラスビシャク Pinellia ternate BREIT. (サトイモ科)
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 日本から朝鮮半島,中国に分布し,日当たりのよい畑や原野に生育する多年生草本植物です。球茎は円球形。葉は長い柄をつけ,葉身は3つに裂けています。花は初夏から夏にかけて咲き,仏炎苞を持つ肉穂花序につけます。この仏炎苞の間から細長い糸状の附属体が出ています。和名は,この仏炎苞をカラスの柄杓に例えて名づけられました。
 薬用に用いる部位はコルク層を除いた球茎です。因みに球茎とは,地上茎の基部に形成され節間が短縮して,ほぼ球状に肥大した地下茎を指した言葉です。一方,塊茎とは地下茎の一部が不定形な塊状に肥大したものを指したものです。
 生薬名はハンゲ(半夏)といいます。健胃消化,鎮吐,鎮咳去痰を目的とした漢方処方に多く配剤されています。
最近は都市化の影響で,生活の身近なところにあった植物でも,忘れ去られてしまいそうなものがあります。カラスビシャクもそのような植物の一つです。かつては農作業など身近に接していた植物の一つで,それだけに土地ごとに独特な名前がつけられています。例えば標準和名のカラスビシャクだけではなく,仏炎苞を雀や蛇,狐などが利用する柄杓に例えて「スズメノヒシャク」や「ヘビノヒシャク」,「キツネノヒシャク」などと呼ばれていました。また畑の雑草として根絶が大変であったことから「百姓泣かせ」とも呼ばれています。除草剤などなかった頃,夏の炎天下で長時間に渡る農作業のご苦労が偲ばれます。とはいえ苦労があれば多少の楽しみもあったようです。多くの雑草は除草された後,畑の隅に野積みされてしまいますが,生薬の「半夏」として利用されるカラスビシャクの球茎は,その都度集められ,量がまとまると生薬の仲買業者に買い取られていきました。そのためお年寄りなどの小遣い稼ぎになり,思わぬへそくりになったことから「へそくり」という名称も残っています。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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