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今月の薬草
ウスバサイシン
Asiasarum sieboldii F. MAEKAWA ( ウマノスズクサ科 )
ウスバサイシン Asiasarum sieboldii F. MAEKAWA (ウマノスズクサ科)
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 日本から中国にかけての地域に分布し,林床に生育している多年生草本植物です。葉はハート形で多くは2枚生じ,春に葉の間から淡汚紅紫色をした花を一つ咲かせます。花には花びらはなく,萼の裂片が花びら状になっています。近縁の植物にフタバアオイがありますが,こちらは薬用とせず,王朝風俗を現代に伝える優雅な京都の下加茂神社の葵祭りのシンボルであり,徳川家の家紋でもあります。
和名は中国に分布する細辛の仲間で,葉が薄いことから名づけられました。細辛は根が細く,咬むととても辛いことに由来しています。薬用には根および根茎を用います。生薬名をサイシン(細辛)といい,鎮咳や去たん薬,鎮痛薬を目的とした漢方処方に配剤されています。
 ヒメギフチョウは別名,春の女神ともいわれ,明るい陽春の下で優雅に舞う姿は正に春の女神に相応しい愛らしさです。しかし,最近はその生息数が激減し,絶滅が心配されています。近縁のギフチョウはランヨウオイやフタバアオイを食草としますが,ヒメギフチョウの食草はウスバサイシンです。彼らの生息地は,ヒメギフチョウは中部以北,ギフチョウは中部以西が中心で,両者の境界は私が住んでいる山梨県やお隣の長野県といわれています。厳しい冬をさなぎで耐えたヒメギフチョウは,春の到来とともに羽化します。そして交尾後,成虫はウスバサイシンの若葉に産卵します。ふ化した幼虫は4回ほど脱皮を繰り返し,夏,さなぎに変態して再び永い眠りに入ります。そのため,春の女神を観察できる期間は意外に短く,わずか2ヶ月間ほどです。優雅にヒラヒラと舞うヒメギフチョウやギフチョウを目にした日は,ラッキーな一日の前兆かも知れません。(磯田 進)

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