冬の落葉した木々に緑の葉を付けて寄生しているヤドリギをよく見かけます。ヤドリギは北海道から九州に分布し、エノキ、ブナ、ミズナラ、ケヤキやサクラなど落葉樹に寄生するため、冬にこんもりした小さな枝のかたまりを容易に見つけることができます。枝は緑色の円柱で、二あるいは三股状に分かれます。葉は対生で、葉質は厚くて細長く、先は丸く、長さ3~6 cm、幅0.5~1 cm程です。雌雄異株で、2~3月に黄色の花は咲きますが、小さくてあまり目立ちません。果実は直径6 mm程の球形で、早春に薄黄色に熟し、半透明になります。果肉はもちのように粘りがあり、鳥黐(とりもち)として、細いサオの先に塗って、小鳥や昆虫の捕獲に使われてきました。また、甘い果実を鳥が好んで食べ、糞中に残った未消化の粘性をもった種子や食べ残しの種子が他の樹皮に付着して、発芽後に新株となります。このようにヤドリギは種子を鳥散布型で他の樹木に付着させる戦略で、種の保存を保っています。
和名は「宿り木」又は「寄生木」で、まさしく樹の上を宿のように寄生して繁茂することに由来します。また、「ホヤ」、「ホヨ」や「トビヅタ」という古名もあります。英名はJapanese Mistletoeと言います。学名のViscumはヤドリギを表すラテン語で粘性の鳥黐(とりもち)に由来し、種小名のalbumは「白い」を意味します。これはヨーロッパ産のセイヨウヤドリギ(V. album)の果実が白色であることに由来します。この種は1893年以来米国オクラホマ州の象徴花となっています。coloratumは「色のついた」の意味で、日本のヤドリギの果実が薄黄色であることを示しています。これとは別に橙赤色の実を結ぶものはアカミノヤドリギ(V.alubum var.rubro-aurantiacum)といいます。
ヤドリギやアカミノヤドリギの枝や葉を乾燥させたものを生薬ソウキセイ(桑寄生)といいます。ソウキセイを煎じて飲むと、血圧を下げ、利尿、頭痛の緩和、リウマチ、神経痛、婦人の胎動不安、産後の乳汁不足などに効果があるとされています。漢方では独活寄生丸(どっかつきせいがん)に配合され、腰痛、関節痛、下肢のしびれ・痛みに効果のある処方として市販されています。ちなみに、セイヨウヤドリギエキスは国外でサプリメントとして、高血圧、動悸や頻脈に使用されています。国内では同エキスを含む4種の生薬エキスからなる薬が、緊張緩和やあがり症などにも効果がある催眠鎮静薬として市販されています。
ヤドリギ科は1,300種もあり、日本にはヤドリギとは属の異なる、葉の大きいオオバヤドリギ(Scurrula yadoriki (= Taxillus yadoriki ))や葉がヒノキに似たヒノキバヤドリギ(Korthalsella japonica)などが生育します。前者は絶滅危惧種に、後者は準絶滅危惧種に指定されています。ヤドリギの仲間は足が地に着くことなく、その存続さえも危ぶまれる気の毒な植物なのです。(高松 智、小池 佑果、磯田 進)